7月20日公開のスタジオジブリ最新作『風立ちぬ』。
 5年ぶりに宮崎駿監督(72)が描くのは一人の青年技師“堀越二郎”の半生の物語です。主人公のモデルとなったのは後に神話と化した零戦を設計した堀越二郎と、同時代を生きた文学者、堀辰雄。この2人の人生を融合させ、技師としての生き方や薄幸の少女菜穂子との出会いなどを、完全フィクションとして描いていきます。

この度、その主人公“二郎”の声優に、あの『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの監督として有名な
庵野秀明さん(52)に決定いたしました。

 主人公には“①早口である②滑舌がよい③凛としている”をイメージしていた宮崎駿監督。適任者を探し
会議を重ねる中で、鈴木敏夫プロデューサー(64)から庵野さんの名前が候補にあがりました。1984年
公開の『風の谷のナウシカ』で巨神兵シーンを描いて以来、宮崎監督を師と仰ぐ庵野さん。声優と聞き「最初から断ることはできない」とオーディションに参加しました。そして、声を聞いた宮崎監督から満面の笑みで「やって」と直々の依頼があり初の主人公役声優に挑戦することになったのです。

 スタジオジブリにて4月中旬から始まったアフレコ収録の序盤では、「難しい」を連発した庵野さん。そのため通常は離れたブースから指示を出す宮崎監督がスタジオに降り、庵野さんの真後ろから声をかける形で
アフレコはスタートしました。宮崎監督から「うまくやろうとしなくていい。いい声だからでなく、存在感で選んだのだから、それを出さなくてはならない」とのアドバイスが出されました。その一言を聞いた庵野さんは外国語や声を張るシーン等にも果敢に取り組み、人を背負うシーンでは実際に手を後ろに回して声を出すなど、体も動かしながら調子をつかんでいきました。また同じセリフを、リズムを変えて何度も繰り返しながら「この練習部分も(録音を)回しておいてくださいね」とお願いしたり、「今の中で使えるものがあると思います」と自分でOKを出したりするなど、日ごろは演出をつける“監督”らしいコメントが随所に飛び出し、宮崎監督は「監督が二人いるみたいでややこしいな」と笑う場面も見受けられました。

 そのほか宮崎監督からは、主人公の半生を描くゆえに年齢が変化していく様子を「まずは20代、語尾を上げ、明るく高い声で」と指示が出されたり、二郎が冷静にみんなを諭すシーンでは「三船敏郎のように」と
注文が出されたりしていました。4日間に渡ったアフレコ収録を通じ“二郎”という役どころをすっかり掴んだ様子で、ヒロインとの愛をささやくシーンにいたっては現場に居合わせた全員が息をのむほどの完成度の高さを見せての一発OK。宮崎監督の満足の笑みが光る現場となりました。

本年は宮崎駿監督と高畑勲監督というスタジオジブリが誇る二大監督の作品が同年公開される奇跡の年。
そこに、ジブリ映画の原点である『風の谷のナウシカ』を知る庵野秀明さんが加わるという更なる奇跡が重なり、2013年の“ジブリイヤー”の勢いは更に加速度を増していきます。

以下、庵野さんのコメントと鈴木敏夫プロデューサーによる起用理由です。

堀越二郎役:庵野秀明さん(52)のコメント

 突然ある日、鈴木(敏夫)さんから「二郎の声をやってほしい」と電話がかかってきました。“まぁ無理だろう”と思いましたが、無理とはいえ宮さん(宮崎駿)から是非にということでしたし、まずはオーディションをして本当にいけるかどうか確認してみようということになりました。オーディションが終わると、しばらく見たことないくらいニコニコと満面の笑みの宮さんに「やって」と言われまして、“これはやるしかないんだろうな”と思ったのが正直なところです。できるかどうかは別にして、やれることはやりますけれど、そこまでです、ということで引き受けました。ダメだったときは、僕を選んだ鈴木さんと宮さんが悪いんです(笑)。といいつつも、頑張ります。

  主役は初めてなので、シーンが多すぎてどこも大変だなあという印象です。もともと宮さんにオーディションで言われたのが「寡黙な男でセリフはそんなにないから」ということで。それを信じて引き受けたのですが、絵コンテ見たらびっくりですよ。ずっとしゃべりっぱなしだし、歌はあるわ、フランス語もドイツ語もあるわで、完全にだまされた!って感じです(笑)。役作りは、素人なのでやっても無駄ですから、意図してやっていません。素のままぶつけて宮崎さんが気に入ればいいし、違えば直していこうと思っていました。役柄についてはあまり説明がなく、注文もそんなにありませんでした。アフレコ2日目くらいから、宮崎さんがニコニコと、とても喜んでいる様子で。それだけでよかったなと思います。
 
 この映画の中に出てくる堀越二郎さんと僕自身が共通するのは“夢を形にしていく”仕事をしているところだと思います。そこはすごくわかるし、自分の実生活にも通じるところがあります。素の自分のままアフレコをやったところを宮さんが喜んでいたので、やっぱりそうなんだなと。アニメや映画を作るということと飛行機を作るということは、作るものは違えども、夢を形にすることは同じ仕事なのだと強く思いますね。

 2時間を超える長編をつくるというのは、体力的にも精神的にも本当に大変な作業です。ラストシーンは、正直感動しました。

鈴木敏夫プロデューサー(64)による起用理由

 役者さんでは演じることのできない存在感です。映画を設計する監督と飛行機の設計士、作るものは違うが共通点もあると思いました。こじつけですが(笑)。

参考1:庵野秀明 プロフィール
庵野秀明 あんの・ひであき:
 1960年5月22日生まれ。山口県宇部市出身。大阪芸術大学に在学中の1981年、大阪で開催されたSF大会「DAICON III」用のオープニングアニメで一躍注目を集める。その後、アマチュア映画集団「DAICON FILM」で数々の作品を手がける一方、上京してTVアニメ『超時空要塞マクロス』(1982年)に原画マンとして参加。1984年には宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』でクライマックスの巨神兵の原画を担当。以後、映画『王立宇宙軍』(1987年)をはじめ、数々の作品でエフェクトやメカ作画を手がける。
 1988年、OVA『トップをねらえ!』でアニメ監督デビュー。オタク心と特撮魂と壮大なSFドラマを一体化した演出で高い評価を得る。続いて1990年にNHKで放送された『ふしぎの海のナディア』で初のTVシリーズ監督を担当(一部、樋口真嗣が監督)。そして1995年にTVシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』を手がけ、1997年の『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』とともに社会現象を巻き起こす。
 1998年に映画『ラブ&ポップ』で実写映画を初監督。1999年にはTVアニメ『彼氏彼女の事情』と『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』のメイキングビデオ『GAMERA1999』を監督。2000年にスタジオカジノ(スタジオジブリの実写レーベル)第1回作品『式日』を監督。2004年、実写映画『キューティーハニー』を監督。
 2006年、株式会社カラーを設立し、代表取締役に就任。自社製作による『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ(2007年〜)では、原作、脚本、総監督、エグゼクティブ・プロデューサーを担当している。2012年7月より東京都現代美術館にて開催された展覧会『館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技』では「館長」を務め、オリジナル特撮短編映画『巨神兵東京に現わる』を企画した(現在、全国巡回中)。

★長編アニメーション映画での声優初挑戦!そしてもちろん、主演声優初挑戦です!!
声の出演をした過去作品: 「アベノ橋魔法☆商店街」(02)*第12話にて声の出演

★宮崎駿監督との仕事の関わり
『風の谷のナウシカ』(84):  原作・脚本・監督/宮崎 駿 原画/庵野秀明
『巨神兵東京に現れる』(12): 企画/庵野秀明 巨神兵/宮崎 駿 *スタジオジブリ最新特撮短編映画

★その他、スタジオジブリ作品との関わり:
『火垂るの墓』(88):     監督/高畑 勲 原画/庵野秀明
『式日』(00):        監督/庵野秀明 *スタジオジブリの実写レーベル「スタジオカジノ」作品

主な監督作品
■アニメ■
「トップをねらえ!」(1988年ビデオアニメ・監督)
「ふしぎの海のナディア」(1990年TVアニメ・総監督)
「新世紀エヴァンゲリオン」(1995年TVアニメ・監督)
『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』(1997年劇場アニメ・総監督)
「彼氏彼女の事情」(1998年TVアニメ・監督)
「空想の機械達の中の破壊の発明」(2002年ジブリ美術館企画展示上映短編アニメ・監督)
「Re:キューティーハニー」(2004年アニメ・総監督)
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2007年劇場アニメ・総監督)
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009年劇場アニメ・総監督)
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012年劇場アニメ・総監督)
■実写■
『ラブ&ポップ』(1998年劇場映画・監督)
『式日』(2000年劇場映画・脚本/監督)
「流星課長」(2002年ショートビデオ・監督)
『キューティーハニー』(2004年劇場映画・監督)

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=50993

執筆者

Yasuhiro Togawa