◆今年のカンヌ国際映画祭のコンペ部門で、ある無名の新人監督が、長編デビューにして見事カンヌのグランプリを獲得するという異例の快挙を成し遂げた。その新鋭とは『ニーチェの馬』で知られる名匠タル・ベーラの助監督をしていた38歳のハンガリー出身の
ネメシュ・ラースローである。このネメシュ監督の長編デビュー作『サウルの息子』はカンヌ映画祭を始め、数々の映画賞を獲得し、
そして第73回ゴールデン・グローブ賞のノミネートを果たした。ネメシュ監督の祖先もホロコーストの被害にあっている。作品についてネメシュ監督は「本作のアイデアは、強制収容所のゾンダーコマンドの元メンバーが書いたテキストを集めた書籍を読んだことから始まりました。そこからたくさんの調査をしました。また、私の親族がアウシュヴィッツで殺されていることも、本作のメガホンをとった理由の一つです。」とコメントしている。

◆『サウルの息子』は今まで歴史の闇に葬られてきた強制収容所の悲劇の部隊‘ゾンダーコマンド’にスポットを当てた作品である。
ゾンダーコマンドとは収容者の中から選抜された特殊部隊のことである。彼らの主な仕事は強制収容所に送られてきた同胞達の衣服を脱がせ、ガス室へと誘導するなどの‘死への案内’である。同胞達を欺かなければならない罪の意識は彼らの精神を蝕んでいった。そして数か月生きながらえた後、彼ら自身も口止めに皆殺されていくのだったー。

◆今回、解禁された『サウルの息子』予告編では、当時の悲惨なホロコーストの状況を垣間見ることができる。1944年アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所。そこには連日移送列車で大勢のユダヤ人が運ばれてきていた。ハンガリー系ユダヤ人である主人公サウルは‘ゾンダーコマンド’という特殊部隊の一員として、同胞のユダヤ人たちの死体処理に従事させられていた。そんな中、サウルは息子とおぼしき少年の遺体をユダヤの教義にのっとり手厚く埋葬しようと決意する。しかし、アウシュヴィッツという追悼の祈りすら捧げられない地獄の中で果たして彼の望みは叶えられるのだろうかー?

予告編::https://www.youtube.com/watch?v=-hD8agG_zx0

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執筆者

Yasuhiro Togawa