〜この映画を通して、なぜ家族と離れ、命をかけて、国を捨てねばならないのか、ということを理解してほしい。
移民・難民それぞれの背景・実情を知ることによって、同情ではなく一人の人間として接してほしい。
— ファム・ディン・ソン(三島・熱海・沼津カトリック教会主任司祭コメントより)〜

本作は移民についての賛否を描いた映画ではありませんが、移民の現実を監督の綿密なリサーチによってリアルに描いた衝撃のドラマです。
米国では4月にアリゾナ州で成立した新しい不法移民対策法が、いよいよ7月末に施行されます。メキシコとの国境で拘束された不法移民の数も州内の犯罪率も、ここ数年は減少傾向にある中、中間選挙を前にメディアは反移民ムードを作っており、オバマ政権を苦境に追い込んでいます。5月にカルデロン・メキシコ大統領が訪米した際には、アリゾナ新法を「努力の方向を誤っている。差別的に使われる恐れがある」と人権差別を懸念し批判する一方で「意見が分かれる新たな課題にすぐに取り組む意欲は、議会にはなさそうだ」とも発言、選挙の争点となるこの問題に民主党がどう取り組んでいくのか、波紋を広げつつあります。

移民を狩るハンターたち!〜法律の下に蹂躙される移民の現実〜

■米国の移民の現状
人口約3億人の米国で、国外出身者は約3千万。うち「合法移民」が約1,860万人、「不法移民」が約1,080万人。
不法移民数を出身国別に見ると、6割強がメキシコ、ついでエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスなどの中米諸国(09年1月現在)。
米国の不法移民には二つの顔があり、農業や建設など単純労働の現場を支える一方、メキシコの麻薬組織とつながり、治安を乱す者もいる。
現在、全米のヒスパニック人口はアフリカ系を超え、最大のマイノリティーとなった。

■不法移民対策法とは
「不法滞在を疑われる理由があれば、警察官は身分書類を確認しなければならない」とする、自治体の警察官に不法移民取締の権限を与える法律。

*米国では不法移民取締は連邦政府の仕事である

少子化の日本でも遅かれ早かれ移民の争奪戦に!?
不況を乗り越えるためには、移民政策へ本格議論を

日本は現在、本格的な人口減少時代に突入している。高齢化を踏まえると事態は更に深刻で、今後50年間年平均1.2%程度のペースで減少を続け、2055年には4,595万人と現在のほぼ半分になると言われている。
わが国のデフレ対策は金融政策主導だが、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は「デフレ脱却には需給ギャップとともに、人口政策の抜本的強化が不可欠」と主張する。つまり、現在のわが国は人口減少による需要の減少が供給の減少を生むという負のスパイラルに陥っているのだ。人口政策とは”少子化対策””海外からの観光客誘致””移民政策”。少子化については既に様々な対策が取られつつある。観光客誘致は年による変動が大きい。そこで人口減の抜本的な食い止め策として、移民政策への議論は避けて通れない。世紀が変わり、人口減に危機感が高まり、03年には民主党有志6人が「移民1000万人構想」を発表、08年には自民党でも外国人材交流推進議員連盟が「移民1000万人受け入れ」を表明、09年1月には内閣府に定住外国人施策推進室ができた。しかし、国内の失業対策が急務であることと、移民政策に批判的な労働組合への配慮から、昨年の民主党政権誕生以降、移民論議は消えた。目先のことで言えば、現状、国内の雇用環境は厳しい。しかし、数年も経てば日本は深刻な労働力不足に直面することになるだろう。人口減はデフレのみならず国内経済に様々な歪みをもたらす可能性がある。わが国も、移民政策へ本格議論を始めなければならない時期にきていることは間違いない。

6/19(土)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=48140

執筆者

Yasuhiro Togawa