あこがれを胸に、伝説の楽園を探す旅は始まった。

『ザ・ビーチ/THE BEACH』
2000年/アメリカ映画/カラー/ドルビーSR・SRD/DTS/SDDS/1時間59分
字幕:松浦美奈

・4月上旬、日比谷映画ほか全国東宝洋画系にてロードショー、

<INTRODUCTION>
今世紀最高の興行収入をたたき出した『タイタニック』で名実ともに世界のトップ
スターの座についたレオナルド・ディカプリオ。公開後、1年間の休養期問に入っ
た彼のもとには出演依頼が殺到した。それらを吟味し、次なるチャレンジとして彼
が選んだのがこの作品。ディカプリオは「次の作品は僕自身が強い思い入れを感じ
られる作品にしたがった。」ザ・ビーチとリチャードのキャラクターは、僕が何ら
かの結びつきを感じられる初めての作品だった」と語る。

新しいミレニアムの幕開けを飾って、再びディカプリオが贈り出したエキサイティ
ングな映画。それが『ザ・ビーチ』なのだ。

コンピューター、ビデオゲーム、携帯電話、インターネットといったテクノロジー
は、我々の生活を快適にし、コミュニケーションを円滑にするために考案されたは
ずだった。ところがデジタルの世界はあまりにも複雑すぎて、多くの人に非現実的
な疎外感をもたらした。バックパックを背負い、冒険を求めてタイにやってきたア
メリカ人青年リチャード(レオナルド・ディカプリオ)もそんな若者の一人だった。
彼を駆り立てていたのは、物でも人でもいいから実際に存在するものと関わりを持
ちたいという欲求。旅行はこれまでと違う何かを探求する行為だというのが彼の持
論だった。
リチャードはタイの安ホテルでフランス人カップル、エチエンヌとフランソワーズ
に出会う。そしてもう一人、ドラッグ漬けの日焼けした旅行者ダフィにも。彼は誇
大妄想的な話を延々と続け、地上の楽園と呼ばれる孤島の伝説をリチャードに語っ
た。それは、まだ観光客に荒らされていない秘密のビーチ。翌日、リチャードの部
屋のドアにはタフィの手書きの地図がピンで止められており、彼本人は自殺を遂げ
ていた。

リチャードはエチエンヌとフランソワーズを誘って、地図をたよりにビーチを目指
す。苦難の末に3人が到着したのは、まさに楽園のような美しい島の小さなコミュ
ニティだった。しかし、コミュニティ内の対立と嫉妬が暴力的なライバル意識を引
き起こし、一連の惨事へとエスカレートしていく。夢は悪夢と化し、楽園は地獄へ
と変貌した。何とか島を離れようとするリチャード。しかし、命がけでビーチの秘
密を守ろうとする者たちの目を盗んで逃げ出すことは、文字通りの決死行だった!!

楽園のような自然を背景に繰り広げられる、血とマリファナにまみれたコミュニティ
の闘争。美しい、イメージと暗い現実が交錯しながら、物語は謎をはらんで展開し
ていく。地上の楽園とその終焉を語る物語。原作は70年生まれのイギリスの新進作
家アレックス・ガーランドが、若者たちの倦怠と狂気を描いたベストセラー。イギ
リスでは96年に発売されるやカルト的な人気を博し、デイリー・テレグラフは「サ
ブ・カルチャーを丸ごと要約するという偉業を成し遂げた」と絶賛した。

ここには「楽園はあくまでも理想世界」というガーランドの気持ちが色濃く反映さ
れている。そして、このエキサイティングな企画を実現させたのは、監督のダニー・
ボイル、脚本のジョン・ホッジ、プロデューサーのアンドリュー・マクドナルドと
いう『トレインスポッティング』『普通じゃない』の黄金トリオ。原作を読んだボ
イルはたちまちその面白さの虜になった。彼は「ここには、自然は我々人間が好き
勝手に踏み込んで開発すべきではないということが描かれている。現代生活に対す
る一種の寓話だ」と語る。

また、編集のマサヒロ・ヒラクボ、衣裳デザイナーのレイチェル・フレミングは
『トレインスポッティング』『普通じゃない』でも組んでいるおなじみのメンバー。
ビーチの美しい映像をとらえたのは「デリカテッセン」やベルナルド・ベルトルッ
チ監督の『魅せられて』で印象的な絵作りをしてきたダリアス・コンジ。音楽は『
ブルー・ベルベット』以降、『ロスト・ハイウェイ』までデイビッド・リンチ監督
の全作品を手がけているアンジェロ・バタラメソティが担当した。
リチャードとともにビーチを目指すフランス人カップルには、『プレイバック』や
エドワード・ヤンの『カップルズ』に出演しているヴィルジニー・ルドワイヤンと
“Barracuda”などの演技派ギヨーム・カネ。コミュニティのリーダー的存在サル
に扮しているのは、『エドワードll』等テレク・ジャーマン監督の諸作や『オルラ
ンド』で知られるイギリスの知性派女優ティルダ・スウィントン。『トレインスポッ
ティング』『フル・モンティ』『ラビナス』のロバート・カーライルがダフィを演
じているのも見逃せない。

また、この映画のもうひとつの魅力は、コバルト色の空と海が美しいタイの自然。
撮影はタイ国内の4力所で行われ、ビーチはプーケット島の涼にあるコ・ピピ・レ
島の岩礁に作られた。スタッフはタイの王立林野省の許可を得て100本のヤシの
木を植え、二つの砂山を低くならした。撮影終了後には、砂山を元通りにし、ヤシ
の木を1本残らず撤去し、海岸から引き抜いた草をすべて植え直したことはいうま
でもない。

<STORY>
リチャード(レオナルドー・ディカプリオ)はアジアを気ままに旅する22歳のバック
パッカー。テレビゲームが大好きで、ベトナム戦争映画に憧れている。彼が初めて
“ビーチ”のことを耳にしたのは、タイを訪れるバックパッカーのべースキャンプ
になっているカオサン通りだった。
バンコクに到着した夜、リチャードは投宿したゲストハウスで“ダフィ・ダック”
と名乗る男(ロバート・カーライル)と奇妙な会話を交わした。長年にわたるドラッ
グ漬けの生活と強い日差しのせいで荒んだ風貌のその旅行者は、誇大妄想的なとり
とめもない話を延々と続け、秘密の孤島の伝説をリチャードに語った。

ひどいスコットランドなまりのせいで最初は“ビッチ”と聞こえた“ビーチ!”ダ
フィはそれを「珊瑚礁と青い海に囲まれたガンだ」と言った。

翌朝、リチャードは部屋のドアにピンで止められた小さな紙切れを見つける。それ
はダフィが伝説の島の位置を示した手書きの地図だった。これこそ自分が探し求め
ていた“これまでと違う何か”かもしれないと感じたリチャードは、再びダフィに
会いに行く。しかし、彼がそこで見つけたのは、自分の手首を切って息絶えている
彼の変わり果てた姿だった。

リチャードは、エチエンヌとフランソワーズに一緒に来るように説得し、ダフィの
地図をたよりに伝説の楽園ビーチを探して南へと旅立った。最も冒険的な旅人たち
が限りない静けさを求めて目指す島ビーチ。美しい秘密の楽園。しかし、誰もそれ
がどこにあるかを知らない。地図を見ながら夜行列車と船を乗り継いで近くの島へ
向かったリチャードは、やがて空想にふけり始め、死んだ“ダフィ・ダック”の幻
影を見るようになる。

ボートで隣の島に上陸し、そこから泳いでようやくビーチにたどり着いた3人。武
装した現地人兵士のすぐ脇を這って進んだり、40メートルもあるような滝の上から
飛び込んだり。何度も命がけの危機を突破した先に目的地はあった。そこはポスト
ヒッピーともいうべき20人あまりの人々が暮らす、エデンの園のようなコミュニ
ティだった。3人はコミュニティの人々に快く迎えられた。青い空、白い砂、きら
めく海……。自然と共生する夢のような生活を送り始めたリチャード。3人は、俗
世間に戻る気持ちを最後の一滴まで吸い取られたようだった。

しかし、美しい夢は長続きしなかった。その島には大麻畑が広がり、栽培している
現地人とコミュニティの間には危うい均衡状態が保たれていた。コミュニティでは
美しい女性サル(ティルダ・スウィントン)がリーダー的役割を担っていたが、内部
には仲間同士の確執が広がり、嫉妬が暴力的なライバル意識を引き起こしていた。
同時に彼らは、自分たちのささやかな平和を守るために外部の人間の立ち入りを極
度に恐れ、排斥しようとしていた。

エチエンヌとの友情の一方で、だんだんフランソワーズに惹かれていくリチャード。
サルとその恋人バッグズ(ラース・アレンツ=ハンセン)、そして死んだダフィとの
不可解な関係。しだいにリチャードはダフィの影を追うようにサルとの関係を深め
ていく。やがてリチャードがこの島で見たものは、楽園という名とは裏腹な人間の
姿だった。そして、コミュニティ内の軋轢は不気味にふくれ上がり、一連の惨事へ
とエスカレートしていく……。

<STAFF>
監督:ダニー・ボイル
製作:アンドリュー・マクドナルド
脚本:ジョン・ホッジ
原作:アレックス・ガーランド
プロダクション・デザイナー:アンドリュー・マカルパイン
撮影:ダリアス・コンジ
編集:マサヒロ・ヒラクボ
衣裳デザイナー:レイチェル・フレミング
音楽:アンジェロ・バタラメソティ
共同製作:ギャラム・マクドゥーガル

<CAST>
リチャード:レオナルド・デュカプリオ
サル:ティルダ・スウィントン
フランソワーズ:ヴィルジニー・ルドワイアン
エチエンヌ:ギョーム・カネ
ダフィ:ロバート・カーライル
キーティ:パターソン・ジョセフ
バッグス:ラース・アレンツ=ハンセ