自分自身を思い出すための勇気を描いた衝撃の実話。

『ボーイズ ドント クライ/BOYs DOn’T CRy』
1999年/カラー/ドルビーSR・SRD/上映時間:1時間59分
字幕:松浦美奈

☆第72回アカデミー賞ノミネート

・6月中旬より、シネマライズほかでロードショー

<INTRODUCTION>
1993年、ネプラスカ州フォールズ・シティ。アメリカの心臓部に位置するこの町で
衝撃的な事件が発生した。町外れの傾きかけた農家で、二人の“女性”の死体が発
見されたのだ。最初は単に血なまぐさい殺人事件と思われていたが、やがて被害者
の一人ブランドン・テーナと犯人たちの物語か明らかになるにつれ、その背景が想
像よりはるかに根深いことがわかってきた。

ブランドン・ティーナは澄んだ瞳が美しい小柄な青年だった。小さな町のコミュニ
ティに突然現れたこの青年には、不思議なカリスマ性が備わっていた。だれもが彼
のチャーミングな雰囲気に引き寄せられ、女たちは憧れの眼で見つめた。しかし、
彼には重大な秘密があった。彼はみんなが思っているような“彼”ではなかったの
だ。

表面的には女性たちの理想のボーイフレンドだったブランドン。しかし実は“彼”
はティーナ・ブランドンという女性だった。性同一性障害によって間違った肉体の
中に閉じこめられてしまったディーナは、ブラントンとして生をる道を選んだ。ブ
ラントンはラナと出会い、恋に落ちた。ラチはすべてを理解した上でブランドンを
愛した。しかし、彼の秘密が明らかになったとき、悲劇の幕が切って落とされる_。

『ボーイズ・ドント・クライ』はアメリカでも最も保守的といわれる地域で起だっ
た実話をもとに、ブラントン・ティーナの生と死を通じて、アメリカの若者の心を
探ろうとする。と同時に、性的アイデンティティのあり方について考え、同性愛に
対する嫌悪と不寛容の本質に鋭く迫っていく。混沌と欲望と暴力の立ちこめるこの
映画の中から現れてくるのは、愛を求めてさまよえるアメリカ人の姿なのだ。

センセーショナルな事件を真摯に見据え、ドラマチックでパワフルな映画を作り上
げたのは、これが初の劇場用長編映画となる女性監督キンバリー・ピアース。ロザ
ンゼルスタイムスが昨年末に大々的に特集したアメリカ映画の“ニュー・ニュー・
ウェーブ”の記事でも、『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟や、『マグノリ
ア』のポール・卜ーマス・アンダーソン、『シックスセンス』のM・ナイト・シャ
マラン、『サ・ビーチ』のダニー・ボイルらと並び、21世紀のアメリカ映画を担う
才能として大きく取り上げられている。彼女は関係者へのインタビューに自分想像
力を加えなから、ブラントンの心と魂を探り、謎に満ちた物語を再構築していく、
フィクションとノンフィクションを巧妙に混ぜ合わせることによって、事実の裏に
ある事実を見つめ、ブラントンの人生を浮き彫りにするのだ。

彼女は単に病理学的な見地での回答を与えようとはしないし、ブラントンを神格化
することもない。だれかを裁いたり、悲劇を生んだ社会的環境を安易に批判するの
ではなく、冷静に、品格をもって、主人公たちの心の痛みを伝えようとする。

ピアース監督は、トルーマン・カポーティやノーマン・メイラーらが切り開いた
ジャーナリスティックーな“ノンフィクション・ノベル”や、『俺たちに明日はな
い』『地獄の逃避行』等のアリカ犯罪映画にインスピレーションを受けたという。
飾り気を取り払った率直な語り口だからこそ、心に響く少年たちの生き様。それは
閉鎖的な田舎町での息詰まるような生活に倦み疲れたアウトサイダーの、純粋なラ
ブ・ストーリーと見ることもできよう。多様化した価値観か複雑に絡み合う現代に
おける、もう一つの「理由なき反抗」といえるかもしれない。ブラントンとラナは
シェームズ・ティーンやナタリー・ウッドと同じように、愛とアイデンティティと
“家”を求めてもがいていたのである。

そして、この映画が成功した最大の要因は、ブラントンに扮したヒラリー・スワン
クの並外れた存在にある。美しい瞳と角張ったあご、華奢でスリムな肉体はイノセ
ントな少年そのもので、ブラントンの持っていたカリスマ性をうかがわせる。また
「KlDS」「Gummo」などで強烈な印象を残すクロエ・セヴィニーがセクシーな恋人
ラナに扮し、ブラントンの“秘密”を受け入れていく過程を説得力をもって演じて
いる『ウェルカム・ドールハウス』『ハリケーン・クラブ』のブレンダン・セクス
トン三世、『仮面の男』『アナザー・デイ・イン・パラダイス』のピーター・サー
スガードらも、リアルな演技でこの物語を真実味あるものにしている。

なお、この作品は1999年ベネチア映画祭の現代映画部門、トロント映画祭の現代映
画部門、ニューヨーク映画祭で上映されて好評を博し、ヨーロッパ映画祭では、非
ヨーロッパ映画部門にノミネート。シカゴ映画祭で最優秀女優賞(ヒラリー・スワ
ンク)に輝き、ストックホルム映画祭では、最優秀脚本賞、最優秀女優賞、国際批
評家連盟賞、観客賞を総なめ。さらに全米批評家協会賞、ニューヨーク映画批評家
協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞の他にゴールデン・クローヴ賞ドラマ部門
で主演女優貫を受賞するなど、今年の映画賞レースのダークホース的存在となって
いる。

<STORY>
1993年、ネプラスカ州リンカーン。20歳になるブラントン(ヒラリー・スワンク)は
髪を少年のようにカットし、ジーンズとフランネルのシャツにカウボーイ・ハット
といういでだちで町に出かける用意をしていた。従兄でゲイのロニー(マット・マ
クグラス)は「フォールス・シティの連中はオカマを殺す」と警告するが、ブラン
トンにとって“男”としての人生こそ正しい道に思われた。

ブラントンはフォールズ・シティヘと向かった。彼は地元のバーで、若い未婚の母
キャンディス(アリシア・ゴランソン)、マッチョな男ジョン(ピーター・サース
ガード)や彼の弟分的なトム(ブレンダン・セクストン三世)らと知り合った。地元
の男たちにはない、ソフトなしゃべり方と優しい表情。ここでは、だれもがブラン
トンの不思議な魅力に魅了された。女たちにとって彼ほ理想のボーイフレンドだっ
た。

そして、ブランドンは彼らの仲間ラナ(クロエ・セヴィニー)を見たとたん、恋に落
ちる。ジョンは元詐欺師。不良グループのボス的存在でラナの母親の恋人だが、実
はラナに惚れている。ジョンの刑務所仲間だったトムは、忠実なパートナーにして
暴力的な若者。彼らは徒党を組み、酒を飲んではパーティに明け暮れていた。退屈
な日常にいらだち、キレる寸前の状態だった。

ブラントンはジョンたちと微妙な均衡を保ちつつ、仲間として受け入れられた。だ
れもが彼が男だと信じ切っていた。しかし“彼”の本名はティーナ・ブランドン。
以前に車を盗んで逮捕された“彼女”は、その日、裁判所への出廷を命じられてい
たが“彼”の頭の中はラナのことでいっぱいだった。ラナの働く工場へ行ったブラ
ンドンは、彼女をデートに誘い出す、初めてのキス、草原でのセックス…。翌日、
キャンディスたちに促されたラナは、ブラントンとのデートを嬉しそうに語った。

ラナに惚れているジョンも、相手がブラントンなら「譲れる」ような気でいた。し
かし、転機は思わぬときにやって来た。裁判所から召還されていたブランドンは、
ある日、免許証からティーナとばれて女性用の留置場に放り込まれる。面会に現れ
真実を教えてくれるようたのむラナ。プラントンは彼女に、自分が男性と女性双方
の性的要素を持って生まれてきた性同一性障害者であることを打ち明ける。ラナは
ブランドンのことを理解しようとした。たとえ彼がティーナという女性であろうと
ラナの愛は変わらなかった。しかし、ほかの者たちにとってはそうではなかった。

町の人々は新聞の“ティーナ逮捕”という見出しを見て驚いた。出所して家に戻っ
てきたブラントンを、ジョンやラナの母親らは「ヘンタイ!」「化け物」となじっ
た。そして、その悲劇は起こった……。

<STAFF>
監督:キンバリー・ピアース
脚本:キンバリー・ピアース、アンディ・ビーネン
製作:ジェフリー・シャープ、ジョン・ハート、エバ・コロドナー
   クリスティーン・ウァッション
製作総指揮:パメラ・コブラー、ジョナサン・セリング、キャロライン・カプラン
      ジョン・スロス
共同製作:モートン・スウィンスキー
製作補:ブラツドフォード・シンプソン
撮影:ジム・デノールト
編集:リー・パーシー、A.C.E.、トレイシー・グレンジャー
プ□タクション・デザイナー:マイケル・ショウ
衣裳デザイナー:ピクトリア・ファレル
音楽スーパーバイザー:ランドール・ポスター
音楽:ネーサン・ラーソン
ライン・プロデューサー:ジル・フットリック
キャスティング:ビリー・ホプキンス、スザンヌ・スミス
        ケリー・バーデン、ジェニファー・マクナマラ

<CAST>
ブランドン・ティーナ:ヒラリー・スワング
ラナ:クロエ・セヴィニー
ジョン:ヒーター・サーズカード
トム:プレンタン・セクストン三世
ケイト:アリソン・フォーランド
キャンディス:アリシア・ゴランソン
ロニー:マット・マクグラス
ブライアン:ロプ・キャンベルー
ラナの母親:ジャネッタ・アーネット