今なお伝説として語られる1978年のカンヌ国際映画祭。

3時間7分に及ぶ長尺の上、むしろドキュメンタリーに近いといっていいほどドラマチックな粉飾のない素朴な映画が他のコンペ作品を圧倒し、審査委員の満場一致という当時異例の決定でパルム・ドールを受賞しました。
イタリアの巨匠エルマンノ・オルミ監督の『木靴の樹』です。

その後、ニューヨーク批評家協会外国語映画賞やセザール賞外国語映画賞など各国の映画賞を総なめ。
翌年日本でも公開されると、それまでの興行常識を覆すほどロングラン・ヒットを記録、多くの批評家、文化人、著名人たちをうならせた本作が、26年ぶりに再公開決定。
79年の初公開時のメイン劇場だった東京・岩波ホールには、実に37年の時を経て戻ってくることになります。

『木靴の樹』は、19世紀末の北イタリア、ベルガモの農村を舞台に大地主の厳しい搾取のもとにあって、貧しい生活を強いられながらも移り行く四季のめぐりのなかで、大地とともに力強く生きる農夫たち4家族の生活が描かれています。
悠然とひろがる大自然のなか、子供の誕生や結婚、教会でのお説法、トマトの栽培、豚や牛の飼育といった当時の小作農夫たちのあたりまえの日常生活の愛すべきエピソードが、人工照明を一切使わず自然光だけを用いた静謐な映像でつづられていくなか、ふとしたきっかけから1つの家族に悲劇がおそいます。

本作は、映画の舞台であるベルガモ地方出身のオルミ監督が、幼いころから祖母に聞いていた昔話をもとに、20年間構想をあたためた作品。
出演者は全て素人のベルガモの農民たちを起用し、監督・脚本・編集・撮影全てオルミ自身で担当。

経済システムや生活スタイルの変化に伴い人々の価値観が変わっていく中でも、ヒューマニズムを信じ、市井に生きる人々を優しく見つめながら社会に埋もれた声にならない声を伝え続け83歳になったいまなお映画を撮り続けるオルミ監督。
同劇場にて4 月23日(土)公開の最新作『緑はよみがえる』の公開を前に、この普遍的名作を堪能する絶好の機会と言えます。

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執筆者

Yasuhiro Togawa