スラム世界と西洋世界の歪み、アルジェリア戦争前夜を描く『涙するまで、生きる』予告解禁&公開時期決定

ノーベル文学賞受賞作家アルベール・カミュ原作の映画『涙するまで、生きる』を5月末よりイメージフォーラムほか全国順次にて公開する運びとなりました。フランスからの独立運動が高まる戦争前夜のアルジェリアを舞台に、殺人容疑で連行されてきたアラブ人と教育に未来を見出した入植者の教師が、解く術のない誤解、復讐の連鎖で加速する争いに巻き込まれながら険しい旅路を乗り越えて、互いの人間性に目覚めていく物語です。
イスラム聖戦主義過激派の戦闘地域であるシリアやイラクなどにヨーロッパから向かった若者は現在5000人を超え、中でもフランス国籍者が最も多いと言われています。そしてアルジェリア戦争後の移民3世にあたる若者も多く確認されています。彼らの祖父らは、パリ郊外の移民区域で貧しい生活を強いられていました。今でも移民への人種差別は根強く、2006年FIFAワールドカップの決勝戦(イタリア代表対フランス代表)において、フランス代表でアルジェリア系移民2世の選手ジダンがイタリア選手に人種差別発言を受けたことで頭突きを見舞わせ退場した事件は有名です。フランスは「アルジェリア戦争」を1999年まで公的に認めずタブー視してきました。そんな国家の歪みが、社会から弾かれ行き場を失う若者を生み、世界を震撼させるテロ事件の容疑者と化したのです。
本作は、フランス人の父を持ち、アルジェリアで生まれ育ち、アルジェリア戦争で板挟みとなった苦悩の作家カミュが60年前に文学に託した正義への問いかけです。今さらに悪化するイスラム世界と西洋世界による悲劇を前に、人間が分かりあうことの困難さと尊さを描いています。
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執筆者
Yasuhiro Togawa