日本海の漁村を舞台に認知症の老父と末期の老母を抱えた家族の苦悩を描く本作は、21世紀の日本が直面する高齢化社会と尊厳死の問題にすでに30年も前に迫っていた予見性に驚かされる力作です。きれいごとではない介護の現実を鋭くえぐりながら、過酷な状況下でもなお見棄てることのできない家族のつながりと愛情の向こうに、困難な時代に立ち向かうほのかな希望を見いだしています。本作は1984年に製作されながら、早すぎた異色の題材ゆえに劇場未公開。昨年の「お蔵出し映画祭2013」で発掘上映されるや満場一致でグランプリに輝き、ここに劇場公開が決定しました。

 主演の三國連太郎にとっても62年の映画人生の200本近い出演映画の中で唯一の未公開となる幻の作品。80歳の老人役に扮した三國は当時61歳、撮影中は毎日2時間以上かけてメイクを施し、徘徊や失禁の場面も演じる入魂の演技が圧巻。さらに田村高廣、初井言栄、長山藍子、誠直也、高橋悦史、下條アトムら日本映画を支える名優たちの見ごたえのある演技によって、比類なき説得力と感動を生み出しています。監督・共同脚本はこれが第一回作品となる『米百俵 小林虎三郎の天命』(1993)の島宏。

5月3日(土)丸の内TOEI他全国順次ロードショー

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=52160

執筆者

Yasuhiro Togawa