ヴェネチア国際映画祭審査員グランプリ(銀獅子賞)を受賞した『運命は踊る』が、9月29日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開いたします。

監督は、デビュー作『レバノン』で第66回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞に輝いた、イスラエルの鬼才サミュエル・マオズ。
長編2本目となる本作で、再びヴェネチア国際映画祭で審査員グランプリを受賞。
デビュー作に続き、2作連続で主要賞を受賞する快挙を成し遂げ、その後も、各国の映画祭で数々の賞を受賞しました。

人は、運命を避けようとしてとった道で、しばしば運命に出会う。——ラ・フォンテーヌ
ミハエルとダフナ夫妻のもとに、軍の役人が、息子ヨナタンの戦死を知らせるためにやって来る。ショックのあまり気を失うダフナ。
ミハエルは平静を装うも、役人の対応にいらだちをおぼえる。そんな中、戦死の報が誤りだったと分かる。
安堵するダフナとは対照的に、ミハエルは怒りをぶちまけ、息子を呼び戻すよう要求する。
ラクダが通る検問所。ヨナタンは戦場でありながらどこか間延びした時間を過ごしている。
ある日、若者たちが乗った車がやって来る。いつもの簡単な取り調べのはずが・・・。
父、母、息子――遠く離れたふたつの場所で、3人の運命は交錯し、そしてすれ違う。まるでフォックストロットのステップのように。

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ギリシャ悲劇を彷彿とさせる三部構成である本作。公開された映像は、第二部の兵役に就いている息子ヨナタンの赴任先が舞台で、
何もない土地にぽつんとある補給路の検問所が映し出される。ごくたまに車とラクダが通過するような、どこかシュールな空間だ。
戦場でありながら間延びした時間を過ごし、暇を持て余しているヨナタンに同僚の兵士が語りかけた。
「“フォックストロット”の意味を?こうやるんだ。前へ 前へ 右へストップ。後ろ 後ろ 左にストップ」

三部構成のそれぞれのパートで登場人物らが語るフォックストロットのステップ。「前へ、前へ、右へ、ストップ。後ろ、後ろ、左へ、ストップ」――元の場所に戻って来る。
どうあがいても、いくら動いても同じところへと帰って来る。動き出した運命は変えることができないということか…。だが、映像では突如ステップが切り替わり、
兵士は夢の女を抱くように銃を抱え、空想の音楽に合わせてマンボを踊りだす。コンテンポラリーダンスが盛んで、世界中からダンサーや演出家が集うイスラエル。
本作でマンボを踊る兵士役のイタイ・エクスロードも実はイスラエルのダンサーなのだ。しなやかでキレのあるダンスに、
ヴェネチア国際映画祭での上映時、世界中がスクリーンに釘付けになったに違いない。

「ホロコースト」「終わらない戦争」「人々の心に刻まれた傷」――トラウマを抱えた国イスラエル。サミュエル・マオズ監督は、現状がどうであれ、
いまだ癒えないトラウマは世代から世代へと受け継がれて、我々は常に実存的な脅威と戦っていると思いこんでいるのだと語る。
「この世代ではトラウマのループを抜けて大きくステップを踏み出すんだと思っても、結局元のところに戻ってきてしまう。
原題となったフォックストロットのステップはそんな我々の社会の象徴です」
また、個人レベルでもトラウマは受け継がれているのだとサミュエル・マオズ監督は語る。「私もホロコーストを体験した母に育てられたので、
『ホロコーストの体験に比べたらなんてことはない。文句を言ってはいけない』と抑圧され、辛さを封印して生きてきました」
抑圧されていた感情を爆発させるように突如マンボを踊りだす兵士のように、本作ではフォックストロットから抜けて大きくステップを踏み出そうと
登場人物らはある行動をとるが、果たしてこの不条理なトラウマの無限ループから抜け出すことはできるのか。それとも…。かすかな愛の光が彼らを照らし出す。

監督自らの実体験をベースに、運命の不条理さを巧みな構成で描き出した本作。まるでギリシャ悲劇を思わせる緻密で独創的なストーリーが、
スタイリッシュな映像、圧倒的で流れるようなカメラワークと相まって、ミステリアスに展開する。
本作を読み解くキーポイントともなるダンスシーンを、まるまる堪能できる本映像は必見だ。

© Pola Pandora – Spiro Films – A.S.A.P. Films – Knm – Arte France Cinéma – 2017
★公開表記
9月29日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!