。第 69 回カンヌ国際映画祭でフィリピン映画界に三大映画祭で初めての主演女優賞をもたらした『ローサは密告された』が 7 月 29 日(土)より、シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開致します。
2016 年 6 月 30 日、ロドリゴ・ドゥテルテが大統領に就任後、過激な麻薬撲滅戦争を筆頭に世界でも注目を集めている国、フィリピン。資料によっては人口の 8 割が貧困とも伝えられるこの国の現在が『ローサは密告された』に垣間見えます。このフィリピンについて、麻薬について、貧困について、そして就任1周年を迎えたロドリゴ・ドゥテルテ大統領について徹底解説します!

ロドリゴ・ドゥテルテ
フィリピン共和国第16代大統領。大統領選期間中から、一貫して麻薬、薬物犯罪への厳し
い取り組みを宣言しており、16年にわたり務めたダバオ市長時代にも「ダバオ・デス・スクワッド ダバオ死の部隊」と呼ばれる自警団による麻薬、薬物犯罪者の暗殺を黙認してきたと言われる。16 年 5 月 9 日、大統領選に勝利し、6 月 30 日に大統領就任。過激な発言の数々から「フィリピンのドナルド・トランプ」などの異名を持つ。麻薬撲滅戦争は国外では批判を浴びているものの、フィリピン国内では幅広い支持を獲得、今年はじめに行われた世論調査では 75%という驚異の支持率をたたき出した。

★ドゥテルテ大統領の暴言集★

「フィリピンのトランプ」の異名をとるほどの過激な活動、過激な思想、過激な発言で知られるロドリゴ・ドゥテルテ大統領。
この1年間の発言の数々を集めてみました。

1)「売春婦の息子は二度と来るな」(フランチェスコ・ローマ法王に対し)
法王のフィリピン訪問により、大渋滞が起きたことが我慢できず、思わず口をついて出た言葉。カトリック教徒の多いフィリピンでは法王批判はタブー。この発言はさすがにすぐに撤回された。

2)「麻薬中毒者は殺せ」
フィリピンの腐敗の原因は麻薬にあると考えるドゥテルテ大統領は「麻薬を完全に撲滅する。逆らう者が望むなら、誰であろうとも、与えるのは死だ」と発言。最後のひとりがいなくなるまで麻薬密売者、麻薬中毒者を殺害してよい、と語っている。

3)「売春婦の息子め、罵ってやる」(オバマ前大統領に向けて)
2016年9月、当時のオバマ大統領と会談を控え、麻薬撲滅戦争を批判されたらどうするか?との問いへの答え。その言葉を受けて、オバマ氏は「面白い人だ」と反応、結果いまは会う時期ではないとして会談は延期になった。

4)「ヒトラーのように虐殺したい」
麻薬撲滅戦争を批判する欧米のマスコミに対し、「ヒトラーはユダヤ人を300万人虐殺したそうだが、この国には300万人の麻薬中毒者がいる。そのすべてをヒトラーのように虐殺したい」と記者会見で発言。

5)「クソ失礼な奴ら。焼き払ってやる」(国連に対し)
麻薬撲滅戦争による殺人を人権侵害として国連から注意喚起がされることに対し、「クソ失礼な奴らだ」と不快を露わにし、国連脱退も辞さない、とした。「アメリカに行く機会があれば国連を燃やしてやる」と発言、脅迫とも受け取られた。

6)「中国人をヘリから突き落とした」
レイプ容疑者だった中国人をヘリコプターから突き落としたと発言。「犯罪者がいればヘリコプターに乗せて突き落としてやる」
とさらに続けた。

7)「コラテラル・ダメージ」
過激な麻薬撲滅の活動のため、麻薬密売人や中毒者を見つけ次第射殺することも多い中、5歳の子供が流れ弾に当たっ
て死ぬ事件が発生。しかし「改革に伴う仕方ない流血。コラテラル・ダメージ」の一言で終了。
8)「3人くらいならレイプしてもかまわない」
2017年5月から戒厳令を出し対応しているフィリピン南部ミンダナオのイスラム過激派制圧で、精神的にストレスを負った兵
士たちをねぎらうつもりで「3人レイプしても私がやったというから」と発言。

9)「暴言はもう言わない」撤回「信じたなら頭がおかしい」
ドゥテルテ暴言やめるってよ…なわけがない!飛行機内で「暴言をやめないと飛行機を落とす」という神の声を聞き、暴言中止を宣言したものの、「そんな言葉を信じるほうが頭がおかしい」と撤回した。

それでもルビー・モレノさんはじめ、フィリピン国民に圧倒的な支持を受けているロドリゴ・ドゥテルテ大統領。その原因がこの国の背景にある。

フィリピンの貧困状況
2015年のフィリピンの貧困率は、21.6%で約2200万人。さらに、食事を確保する上で最低限必要な「食糧費」より「収入」が下回る人は人口の 8.1%、820万人が最低限必要な食事すら口にできていないという。しかし、統計局が把握している貧困率以上に、さらなる貧困が潜んでいるともいわれ、メンドーサ監督はインタビューで「人口の8割が貧困」と答えている。

フィリピンの麻薬状況
スペイン、アメリカの大国からの侵略・蹂躙に晒されてきたフィリピンは大きな産業が育たず、小さな工場で作りやすく単価も高い、覚せい剤や銃器の密造が盛んになった。特に多くの貧困地区では過酷な労働に耐えるため、薬物が蔓延している。
薬物に汚染された国民と密売人は一説では 30 人に 1 人とも言われている。

警察の汚職と麻薬政策
フィリピン最大のメディア企業である ABS-CBN は、大統領選翌日の 2016 年 5 月 10 日~17 年 5 月 9 日までの 1 年間で3,407 件の麻薬関連死が発見され、そのうち 1,897 件が警察による殺人と報じている。平均すると毎日 9 人の麻薬関連死者がいて、そのうち 5 人が警察により殺害されているという計算になる。

フィリピンのスラム
48 年に約 1,925 万人だったフィリピンの総人口は 95 年には約 6,859 万人と約 3.6 倍に膨張。マニラ首都圏では 60~95年の間で約 246 万人から約 945 万人に人口が増加している。82 年推計では、スラム及び、不法占拠者居住地区の人口は 236 万 5495 人でマニラ首都圏人口の約 40%を占めていた。

急激な経済成長→人口増加→職が足りず無職に→貧困→スラム化→薬物蔓延→汚職で脅迫→さらなる貧困……という負のスパイラルが続くフィリピン・マニラ。この負の連鎖を切るためにはロドリゴ・ドゥテルテ大統領がとる過激な手段しかないのか? しかし、この1年間で麻薬に関わる者の恐怖は膨れ上がるものの、治安は安定してきているという。事実、「フィリピン随一の危険地帯」と言われたダバオ市をドゥテルテ氏就任期間中に「最も治安のよい市」に変えたという前例もある。半年で評価が決まるだろうと言われていたドゥテルテ政権。現在、南部のミンダナオに潜むイスラム過激派や ISIS の制圧に手間取っている。様々な要因で真価を問われている現政権が今日6月30日で1年となる。
『ローサは密告された』には、現政権の背景にある「貧困」「麻薬密売」「汚職」「密告」「スラム街」が描かれれる。これを機会に是非、本作からドゥテルテの生きる国を観てほしい。

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