2015年ヴェネチア国際映画祭で一際異彩を放つミステリー作品があった。これに真っ先に反応したのが『羊たちの沈黙』(91)で知られるジョナサン・デミ監督。オリゾンティ部門の審査委員長を務めたデミは、同部門の監督賞と初長編作品賞を贈り、「身震いする緊張感、戦慄の映画」と大絶賛した。

心理ミステリーの巨匠から賛辞を受けたその作品の名は、『シークレット・オブ・モンスター』。
ジャン=ポール・サルトルの短編小説「一指導者の幼年時代」(38)をベースに、ヴェルサイユ条約締結直前のフランスを舞台に、アメリカからやって来た政府高官の幼い息子が、やがて狂気のモンスター =”独裁者”へと変貌してしまうまでの謎に迫る怪作。本作の監督・脚本を手掛けたブラディ・コーベットは「一見無造作に散りばめられたパズルを観客が繋ぎ合わせていくと、その先に何かが見え始める。しかし、気づいたときには観客自身がその世界に引きずり込まれる仕掛けをしている」と語る。 「独裁者になる原因とは一体何か?」この最大の謎に挑む者は世界で後を絶たない。

本作には世界を舞台に活躍する実力派俳優たちが結集。独裁者となる少年の母親役には、『アーティスト』(11)でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたベレニス・ベジョ。その少年役には『ベニスに死す』(71)の主人公を彷彿とさせる美少年にして、本作が映画デビューとなったトム・スウィート。家庭教師役には、『ニンフォマニアック』(13)で衝撃のデビューを飾った、ステイシー・マーティン。『トワイライト』シリーズで人気を博した、ロバート・パティンソンも重要な役柄で出演。

さらに終始不気味、なほどに恐怖心を駆り立てる重厚なサウンドを生み出したのが、スコット・ウォーカー。60年代にウォーカー・ブラザーズのメンバーとして人気を誇った後、ソロアーティストに転向。デヴィッド・ボウイを始め、レディオヘッド、U2、ブラーなど、UKを代表するミュージシャンがこぞって彼からの影響を口にするほどのカリスマ的存在。そんな彼が今回、『ポーラX』(99)以来16年ぶりにスコアを書き下ろした。

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執筆者

Yasuhiro Togawa