現役介護士が“認知症のきらめき”をすくい上げた渾身の長編デビュー作

現役の介護士である谷口未央が、自らの経験から書き上げたシナリオが、2013年、伊参スタジオ映画祭(群馬県中之条町)のシナリオ大賞を受賞。翌年、女性監督・谷口未央の長編映画デビュー作『彦とベガ』として完成しました。現代日本の大きな問題となっている老人介護、認知症。本作は、それらを決して悲観的に描くのではなく、老いの先にある“生”に目を向け、“認知症のきらめき”を丁寧にすくい上げています。老夫婦に対して常に優しい眼差しを向けながら、老人介護、認知症の現実を俯瞰的に見据えた描写は、実際にその苦悩に寄り添ってきた介護士だからこそと言えるでしょう。全国各地の映画祭で、「他人事ではない」「切なくて涙があふれた」「人の美しさを感じた」と高い評価を受け、2015年のあいち国際女性映画祭では、フィルム・コンペティション長編フィルム部門のグランプリに当たる《金のコノハズク賞》を受賞。これからが大いに期待される女性監督の誕生となりました。

主人公・比古朝雄を演じるのは、大島渚監督『青春残酷物語』や鈴木清順監督『けんかえれじい』など、日本映画史に残る名作に数多く出演する川津祐介。認知症の妻・ことを演じるのは、篠田正浩監督『乾いた花』TVドラマ「赤いシリーズ」などに出演し、近年も着実に女優活動を続ける原知佐子。さらに、これからが期待される若手俳優たちが好演。大ベテランと若手の競演も見どころとなっています。

「彦」「ベガ」と呼び合う老夫婦。うつろう日々の中で、共に生きることを星に願った。

あらすじ:山あいの古民家で暮らす老夫婦、比古朝雄とこと。ことは認知症で、自分を16歳の少女と思い込んでいる。互いを「彦」「ベガ」と呼び合い、川原で星を眺めることが日々の楽しみ。離れて暮らす一人娘の環は、ことの老人ホーム入所を提案するが、朝雄は「ベガはまだこの家で暮らせるし、それを望んでいる」と首を縦に振らない。ある日、比古家に若い訪問介護ヘルパー・菊名慧がやってくる。認知症のことに最初は戸惑う菊名だったが、日が経つにつれ、ことの少女のような振る舞いに愛らしさを覚える。その一方で、朝雄は二人の親密な様子に複雑な想いを募らせていた。朝雄とことの穏やかだった日々がうつろい始める…。

2016年7月16日(土)より 新宿K‘s cinema にて公開

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=54948

執筆者

Yasuhiro Togawa