第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門におきまして日本人初の監督賞に輝いた黒沢清監督作品『岸辺の旅』が、遂に10月1日(木)より遂に日本公開となります(テアトル新宿他全国ロードショー)。

黒沢清監督にとっては、初のロードムービー、そして初のメロドラマと言われている本作は、深津絵里と、浅野忠信というまさに国際的にも活躍する日本映画界を代表する2人の実力派が夫婦役で、この“究極のラブストーリー”を演じています。黒沢清監督とは今回が初顔合わせとなる深津絵里と、黒沢清監督作品には映画としては『アカルイミライ』以来12年ぶりの出演となる浅野忠信に加えて、「あまちゃん」コンビ大友良英と江藤直子という最強タッグが担当したオーケストラによる音楽が話題となっています。カンヌ受賞作をさらに盛り上げ、黒沢作品の新境地を開拓する音楽を担当した大友良英さんが製作秘話を語りました。

◆『岸辺の旅』の音楽を担当することになった経緯と黒沢監督との仕事とは?
黒沢監督と製作会社から直接オファーされまして、「オーケストラもやれる?」と訊かれたので「江藤さんと組めるならやれるよ」と答え江藤直子さんと共作しました。監督によって違いますが、黒沢さんの場合は細かいディテールを言うよりは、大きく「この映画にとって音楽がどういう意味があるのか」というところから話を持ってくる感じで、「この辺にこういう音楽が必要です」と言って作ったものがそのまま付いていることがすごく少ないです。あまり細かく作らないということと、オーケストラ単体でもちゃんと音楽として成立したものをつけるというイメージだったので、黒沢監督の意図を汲んでどれだけ従来の劇伴とは違うものを作れるのかというところに注意しましたが、でも実は手間は江藤さんの方がはるかにかかっています。
◆黒沢監督との仕事で大友さんが見つけた“新たな発見”
ああいう映画にオーケストラをつけられるというのが大発見です。通常、日本映画でこういう風にはつけませんから。予算もこともありますが、この内容なら小編成ないしはピアノであいますから。何にも言われなかったら俺もそういう方向でつけちゃったような気がします。でもオーケストラ前提で考えると、あっそうか!と。 黒沢監督は「例えば小津映画とかでも、別に家族のなんてことないシーンにオーケストラがついてますよね。そういうのをやりたいんです」と言っていて、そうか!そうだよな、確かに昔の映画ってそうだったと!ここ20〜30年の日本の劇伴のつけ方に自分もとらわれていました。なにも映画のサイズの中に音楽までおさまる必要なんてないんです。オーケストラがあの映画についたらどうなるのか、俺もやってみたくなりました。

◆オーケストラの豊かさを実現したのは江藤直子さんの功績です
本当に苦労されたのは江藤直子さんで、江藤さんの今までの音楽的キャリアの全てをつぎ込んで臨んだんじゃないかな。なにしろ予算との闘いという制約の中で最大限の効果をあげねばと必死でしたから。最初に黒沢監督さんに「マーラー…」って言われたときには即「無理だと思いますよ」って言いました!編成的に予算をはるかに超えてますから。でもマーラー的なもののもつ、あるオーケストラの豊かさは実現したかった。ちゃんと本物にしなくてはと。その部分で江藤さんの功績、大きかったです。

音楽が付く前の段階でこれ本当にいい映画になるなと予感したと言う大友さんは、音楽で失敗してせっかくのいい映画がダメになったら、責任はけっこう重大だと思いながら臨んだと言います。そんな皆の力が結集して、カンヌでの日本人初受賞につながった『岸辺の旅』の音楽をスクリーンでぜひ生で体感してほしい。

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=52642

執筆者

Yasuhiro Togawa