『死の棘』で第43回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ&国際批評家連盟賞をダブル受賞、『泥の河』『伽倻子のために』『眠る男』など海外でも評価の高い小栗康平監督10年ぶりの新作。タイトルの『FOUJITA』は、フジタのフランス語表記。1913年、27歳で単身フランスへ渡り、1920年代前半に発表した「ジュイ布のある裸婦」(寝室の裸婦キキ) をはじめとして、“乳白色の肌”と称された裸婦像が絶賛を浴び、エコール・ド・パリの寵児となり、社交界の人気者となった。1940年、第二次大世界大戦でパリがドイツ軍の手に落ちる寸前に、帰国を果たす。戦時の日本では「アッツ島玉砕」をはじめとして数多くの“戦争協力画”を描く。戦後、戦争責任を問われて日本を去り、その後、フランスに帰化。カソリックになって洗礼名をレオナール・フジタとする。フジタは戦後、二度と日本に戻っていない。
小栗監督はフジタが生きた二つの時代、二つの文化の差異に注目する。「パリの裸婦は日本画的といってもよく、日本での”戦争協力画”は西洋の歴史画に近い。『大東亜の理想』が叫ばれていたときである。これをフジタの”ねじれ”ととるか、したたかさ、ととるか、掘り下げるべきテーマは深い。」と語る。
伝記映画の枠にとどまらない、小栗監督のオリジナル脚本である。

主演のフジタを演じるのはオダギリジョー。韓国の鬼才キム・ギドク監督作品に出演するなど海外での活躍も目覚ましいが、本作が初めての欧州進出となる。本映画の半分はフランス語。猛特訓して撮影に挑んだ。共演には、『電車男』『嫌われ松子の一生』『縫い裁つ人』などの中谷美紀。ほかに加瀬亮、岸部一徳。フランスからも人気の俳優が顔をそろえている。フランス側のプロデューサーは、クローディー・オサール。『アメリ』で世界的大ヒットを飛ばし、エミール・クストリッツア監督『アリゾナ・ドリーム』ヴィム・ベンダース監督『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』などアート系の作品も数多く手掛けている。小栗監督の静謐な映像美でフジタの知られざる世界が現出する。話題の映画だ。

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執筆者

Yasuhiro Togawa