「でも、いいって。あたしがいいって 言ってくれたんだよ」
父はアル中、母親は男と出て行ったきり、彼女自身は万引きで2回捕まったことがある。それは彼女の住む世界では、ありふれた日常。そんな彼女の日常に飛び込んできた世間様の言う”ごく平凡な幸せ”、それは彼女にとってはかけがえのないもの。「万引き、捕まったことあんの あたし。 でも、いいって。あたしがいいって 言ってくれたんだよ」(乃梨子) しかし、彼女が生きてきた世界の呪縛によって、その”ごく平凡な幸せ”が当たり前のように侵蝕されていく。彼女が援助交際にいきついた事も、その先に破滅の匂いが漂うのも特別なことではない。それでも愛する娘、愛する夫がいる。乃梨子は、ちゃんと生きている。
 脚本は、『草叢』で月刊シナリオ・準グランプリを獲得した『憐 Ren』の尾上史高、その深い人間観察から社会そのものを炙り出す。監督は5年ぶりの新作となった『いくつになってもやりたい不倫』の坂本礼、多くの有名監督(滝田洋二郎、周防正行、等)を輩出した老舗映画製作会社・国映の最後のピンク・フィルム世代、厳しい制約と環境下で鍛えられた作風は、人間そのものをシンプルかつ愛情深く描く。

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=53481

執筆者

Yasuhiro Togawa