1970年代イギリスの少年院を舞台に、未成年の受刑者たちへの不条理な暴力と冷酷極まる管理システムを赤裸々に描いた問題作、『SCUM/スカム』(1979)。本国公開から35年、遂に日本初公開となる本作の監督を務めたのは、故アラン・クラーク。BBCのディレクターとして本作の基になったTV版を監督するも、その暴力表現と反体制的な制作方針が局内の検閲に引っ掛かりお蔵入りに。しかしそのTV版を執念でリメイクし、本作で劇場映画デビューを飾った。1979年当時、成人映画として英国映倫からX指定を受けた表現は、今も強烈なインパクトを失っていない。本作以降、映画界とTV業界を行き来しながら活動を続けたが、1990年に54才の若さで死去。本作『SCUM/スカム』をはじめ、「Made in Britain」(1982)、「The Firm」(1989)、「Elephant」(1989/短編)という3本のTVムービー(いずれも日本未公開)は、その死後次第に評価を高め、欧米では今やカルト的な人気を集めている。

クラーク監督作品のドキュメンタリックな演出法に影響を受けたと表明する英国映画人の中には、ポール・グリーングラス(『キャプテン・フィリップス』)、スティーブン・フリアーズ(『あなたを抱きしめる日まで』)、デヴィッド・リーランド(「Made in Britain」の脚本)、ダニー・ボイル(「Elephant」のプロデュース)といった監督たち、そして俳優では本作主演のレイ・ウィンストン、ゲイリー・オールドマン(「The Firm」主演)、そして“『SCUM/スカム』を見て役者になりたいと思った”と語るティム・ロスらがいる。ロスは、たまたま自転車がパンクして立ち寄った劇場でのオーディションでスカウトされ、「Made in Britain」への主演が決まったという逸話が残されている。

クラーク作品の影響は、英国映画人だけにとどまらない。アメリカ人監督、ガス・ヴァン・サントのカンヌ映画祭パルムドール+監督賞のW受賞を果たした『エレファント』(2003)は、1999年に起きた米コロラド州コロンバイン高校の銃乱射事件をモチーフにしたといわれる作品だが、実はクラークのTV作品「Elephant」と題名を引用しただけでなく、ミニマルな映像スタイルをはじめ、大きな影響を受けて作られた作品といわれている。「Elephant」は、北アイルランドを舞台に、何の背景の説明もない男たちが、人々の家に押し入ってはただひたすら拳銃での殺人を18件繰り返していくという約40分のドキュメンタリー的な短編。無言で繰り返される殺人は、16mmフィルムによるステディカム・カメラの長回し×超広角レンズによる移動撮影によって捉えられ、見る者に酩酊感と同時に、殺人に対して次第に無感覚になっていくという怖ろしい効果を与えている。このような作品が、80年代末にBBCでオンエアされてしまったということ自体、大変な事件だったといえよう。
また『ガンモ』(1997)、『スプリング・ブレイカーズ』(2012)などで知られる鬼才、ハーモニー・コリン監督も、あるインタビューでクラーク監督を絶賛し、“もし誰かに一番好きな、もしくは最も偉大だと思う監督は?と聞かれたら、躊躇なくアラン・クラークと答える。彼の自然な語り口と作品の本質を突いた演出は本当に凄い。クラーク監督の表現以外の何物でもない。実は取材で彼の話をするのは好きではないんだ。誰も分かってくれないから。しかし彼こそ世界で最後の本当の聖なる映画監督だ。特にアメリカでは誰も彼のことを知らないし、イギリスでも知っている人は少ないんだ”と語っている。

故アラン・クラーク監督の代表作であり衝撃作『SCUM/スカム』は、10/11(土)より、新宿シネマ・カリテにてレイトショー公開される。

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執筆者

Yasuhiro Togawa