スパイ小説の大家『裏切りのサーカス』のジョン・ル・カレがあぶり出す、“現代”の<リアル>諜報戦。

当代最高の名優であり、映画人たちから絶大な尊敬と信頼を得ているフィリップ・シーモア・ホフマン。『カポーティ』ではアカデミー賞主演男優賞に輝き、昨年も『ザ・マスター』での鬼気迫る演技で我々を魅了したばかり。しかし2014年2月2日、N.Y.の自宅で彼の遺体が発見。突然の訃報に世界中が衝撃を受け、打ちひしがれた。まだ46歳の若さだった。

原作は映画化作品『裏切りのサーカス』の大ヒットが記憶に新しいスパイ小説の大家、ジョン・ル・カレが2008年に発表した傑作ミステリー。本作が描くのは“9.11”以降の複雑な今の時代。冷戦時代の東西対立といったわかりやすい構図ではなく、テロ対策を軸にした現代の諜報戦をリアルに描き出しているのが、従来のスパイ物の多くと一線を画す特長である。

ホフマンが演じるのは、ドイツ・ハンブルクの小さなテロ対策スパイチームを率いる男、ギュンター・バッハマン。酒とタバコを手離さず、組織との軋轢と闘いながら、己の信念を貫こうとするバッハマンの孤高の凄みや哀愁、人間臭さを、ホフマンはこれ以上ない深みで絶品の演技を披露している。そして、アカデミー賞®に2度のノミネート経験を持つウィレム・デフォー、ゴールデングローブ賞®受賞経験を持つロビン・ライト。さらに人気女優レイチェル・マクアダムスなど、ハリウッドを中心に活躍する名うての俳優たちが集結した。
監督は『コントロール』『ラスト・ターゲット』のアントン・コービン。スタイリッシュな映像感覚と、伏線に伏線を重ねた繊細なストーリーテリングでル・カレの世界を独自に昇華し、知的で高品質のエンターテインメントに仕立てた本作は彼の最高傑作と言えるだろう。

そしてこの度、注目のポスタービジュアルが完成いたしました。
ホフマン演じるバッハマンの横顔をバックに、構成された一枚。彼の見つめる視線の先には一体何が映っているのだろうか。また、意味深なコピー“その瞬間、世界の全てが敵となった。”は、一体誰に向けられているのか、映し出されるキャラクターそれぞれの思惑を推し量りながらも様々な憶測が掻き立てられる。さらに、文字通りル・カレがあぶり出す“現代”の諜報戦は従来のスパイ映画とは一線を画すことを優に想像させるが、色調を抑えた作りがコービン監督らしく、かくもスタイリッシュなビジュアルに仕上がっている。

実は、今回のポスタービジュアルは本国のデザインを踏襲させている。故ホフマン最後の主演作にして最高傑作と呼び声高い本作、彼の死を偲び、担当する日本の配給会社プレシディオの宣伝プロデューサー佐藤愛さんは「世界が誇る俳優フィリップ・シーモア・ホフマン最後の主演作というところで、日本での劇場公開においても注目される作品になると思っております。本国のビジュアルはスパイの悲しみともとれる視線と彼の横顔がとても印象的でした。北米公開が7月25日に控えている中で、本国に敬意を払い、共に盛り上げていきたいと考え、キャラクターの画像など細かな違いはありますが、踏襲するデザインに至りました。」と話す。さらに、本国のビジュアルデザイナーは「ル・カレ原作のスパイ映画というミステリー感を出すために、パズルのようにして表現しました。ホフマンの死後に完成した為、彼に見せることは叶いませんでしたが、もちろん彼に敬意を払ってデザインしました。きっとホフマンも見たら気に入ってくれると信じています。」と述懐。
7月23日は生きていればホフマンの47歳の誕生日でもあった。7月25日、いよいよ彼の主演作最期の姿が全米公開となりスクリーンに映し出される。

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執筆者

Yasuhiro Togawa