2014年2月に亡くなったフィリップ・シーモア・ホフマンの最後の主演作となる『誰よりも狙われた男』(原題:A Most Wanted Man)が、先日7月25日に全米公開いたしました。

 リュック・ベッソン監督の『LUCY/ルーシー』(3173館)や『ヘラクレス』(3595館)が同日に公開し、夏の超大作『猿の惑星:新世紀ライジング』(3668館)や『トランスフォーマー/ロストエイジ』(2476館)などがまだまだランキングが賑わせているなか、『誰よりも狙われた男』が361館での小規模公開にして10位と好スタートし、興収2億8千万円を稼いだ。1館あたりの興収は、『LUCY/ルーシー』『ヘラクレス』につぎ、3番目に大きなものとなった。『ウィンターズ・ボーン』『BIUTIFUL ビューティフル』『オール・イズ・ロスト』『MUD』など、良質な作品を提供している北米の配給会社Roadside Attractionsの過去11年間で、オープニングTOP10入りしたのは、本作が初めてとなる。

 レビューも、「フィリップ・シーモア・ホフマンの演技が光る。非常に空気の張り詰めた一流のスパイスリラーだ」(LA Times)、「ホフマン最期の素晴らしい演技が見られる。ひねりのきいた一級の作品だ」(Rolling Stone)、「本作のイタチごっこは、興味深くもあり、身近に感じる。ホフマンの魂のこもった演技が作品のレベルを押し上げた」(Newsday)、「見事に練られた作品は、観客を惹きつけるだろう。」(Hollywood Reporter)と、高評価となった。世界の映画評サイト、ロッテントマトでも、同じ原作者で多数の賞にノミネート・受賞を果たした『裏切りのサーカス』の公開直後の84%を大幅に上回る、90%が絶賛と高評価となった。アクション大作や家族向け作品が多い中、年齢層が高い観客、フィリップ・シーモア・ホフマンの最期となる主演作を見に行こうとする映画好きを、うまく取り込み、今後のクチコミも期待できるだろう。

スパイ小説の大家ジョン・ル・カレ原作の本作が描くのは、“9.11”以降の複雑な今の時代。冷戦時代の東西対立といったわかりやすい構図ではなく、テロ対策を軸にした現代の諜報戦をリアルに描き出しているのが、従来のスパイ物の多くと一線を画す。ホフマンが演じるのは、ドイツ・ハンブルクの小さなテロ対策スパイチームを率いる男、ギュンター・バッハマン。酒とタバコを手離さず、組織との軋轢と闘いながら、己の信念を貫こうとするバッハマンの孤高の凄みや哀愁、人間臭さを、ホフマンはこれ以上ない深みで絶品の演技を披露している。その他、ウィレム・デフォー、ロビン・ライト、レイチェル・マクアダムス、ダニエル・ブリュールなどハリウッドを代表する俳優陣たちが共演。『コントロール』『ラスト・ターゲット』に続き、長編3作品目となるアントン・コービンが、スタイリッシュな映像感覚と、伏線に伏線を重ねた繊細なストーリーテリングでル・カレの世界を独自に昇華し、知的で高品質のエンターテイメントに仕立てあげた。監督はホフマンに対し、「彼は200%人間だった。苦闘し欠点をもつ人間。だが、そこから偉大なる芸術が生まれるのだと、僕は信じたい。」と語った。本作の日本での公開は、10月よりTOHOシネマズシャンテ他にて全国公開いたします。

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執筆者

Yasuhiro Togawa