このたび、フランスの映画作家であり、これまで日本ではほとんど紹介されてこなかった、モーリス・ピアラ監督の日本初となる特集上映を、10 月、シアター・イメージフォーラムほかにて開催することが決定いたしました。

モーリス・ピアラ —— 《人間》を凝視し続けた、孤高の監督

代の多くの映画作家に大きな影響を与えながらも、日本では2作品が劇場公開、2 作品が劇場未公開のままビデオ化されただけの映画監督 モーリス・ピアラ。フランス本国における評価、知名度は、日本と比ぶべくもないほど絶大で、ちょうど没後 10 年を迎えた今年、パリのシネマテーク・フランセーズでは大規模な回顧展も開催され、あらためて世界的 再評価が高まっている。

このたびの特集上映では、日本初公開であり、ピアラの決定的代表作『ヴァン・ゴッホ』を含め、ピアラの後期傑作をスクリーンで堪能する機会となる。上映作品は下記の 4 本。
特に、今回が日本初公開となる『ヴァン・ゴッホ』は、映画監督になる前、画家を志していたというピアラ渾身の作品。しかしながらこれまでソフト化もされず、日本ではなかなか見ることのできない映画だったが、本作を羨望する映画作家たちは多く、ジャン=リュック・ゴダールは 91 年の公開当時、ピアラ本人に賛辞を記した手紙を書き送ったというエピソードもある。
なお、今年はゴッホ生誕160年にあたる。ゴッホを描いた映画は、これまで『炎の人ゴッホ』(ヴィンセント・ミネリ監督/57)、『ゴッホ』(ロバート・アルトマン監督/90)があったが、新たなゴッホ像を描いた作品として、映画好きのみならず、美術ファンも必見の映画である。

■上映作品
①『ヴァン・ゴッホ ヴァン・ゴッホ ヴァン・ゴッホ』 *本邦初公開 【セザール賞主演男優賞受賞(ジャック・デュトロン)】
画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの人生最期の2ヶ月間を描く。ピアラを一気に名匠ジャン・ルノワールの高みへと近づけた決定的代表作。

②『愛の記念に』 出演:サンドリーヌ・ボネール 【セザール賞最優秀作品賞、ルイ・デリュック賞受賞】
奔放に男たちと付き合うものの、本当の愛を知らない少女シュザンヌが傷つきながらも成長してゆく姿を描く。

③『ポリス』 出演:ジェラール・ドパルデュー、ソフィー・マルソー【ヴェネツィア映画祭最優秀男優賞受賞(ドパルデュー)】
刑事マンジャンは麻薬捜査で逮捕された若い女ノリアと出会い、愛情を持ち始めるが…。フランスにおけるピアラ最大のヒット作。

④『悪魔の陽の下に』 出演:ジェラール・ドパルデュー、サンドリーヌ・ボネール 【カンヌ国際映画祭パルムドール受賞】
殺人を犯してしまった少女を救おうとする一人の神父の姿を通して、人間の苦悩と絶望を炙りだしていく。

モーリス・ピアラ——気難しくて、マスコミ嫌い。しかし、比類なき影響力を持ち得たフランス最高の映画作家1925 年 8 月 25 日フランス オーヴェルニュ生まれ。画家を志し、パリに出て工芸学校ボザールで学ぶ。絵を描き続け、展覧会に出品すると同時に、映画にも興味を持ち始め、1950 年にはカメラを購入してアマチュアの短篇映画を撮り始める。短篇ドキュメンタリー「L’Amour existe」(60)で監督としてデビューを果たし、68 年、長篇劇映画「裸の幼年時代」がヴェネツィア映画祭に正式出品される。
その後、ジェラール・ドパルデュー、イザベル・ユペールというスターの共演による「ルル」(80)、天才的新人女優サンドリーヌ・ボネールを見出した『愛の記念に』(83)などを発表。1987 年、再びドパルデューを主演にしたベルナノス原作『悪魔の陽の下に』で、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。1991 年にはピアラが敬愛してやまない画家をモデルとした『ヴァン・ゴッホ』を発表。
2003 年 1 月 11 日、腎臓疾患によりその生涯を閉じる。享年 77 歳

公式サイト http://www.zaziefilms.com/pialat

予告編::http://youtu.be/Hr78WI253CQ

執筆者

Yasuhiro Togawa