10月3日(土)ライズXにて行いました映画『ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション』のイベントレポート!

黒坂 圭太さん(アニメーション作家・武蔵野美術大学教授)原田 浩さん(アニメーション演出家 『地下幻燈劇画 少女椿』)

イベント内容
9月19日(土)より公開となりました映画『ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション』のトークショーイベントを行いました。ライアン・ラーキンと同様に独特な世界観を持ち、海外でも高い評価を得ている黒坂圭太さんと原田浩さんをお招きして、ライアン・ラーキン作品の魅力について語っていただきました。

■プロフィール
黒坂圭太:アニメーション作家。数々の国際アニメーション映画祭で受賞経歴を持つ。また、武蔵野美術大学の教授として、クリエイターを目指す若者たちを指導している。代表作は「みみず物語」「箱の時代」など。2010年に新作「緑子」が完成予定。

原田浩:アニメーション演出家。「ドラえもん」や「めぞん一刻」などの原画・動画を手がける一方で、自身の作品を監督。代表作は、丸尾末広原作のアニメ「地下幻燈劇画 少女椿」。1992年に公開され、熱狂的なファンの間で現在も伝説的作品として語られている。新作「ホライズン・ブルー」「座敷牢・特別版」を準備中。

コメント
「超早熟の天才 ライアン・ラーキン」
原田:黒坂さんにとってライアン・ラーキンは影響を受けたアニメーターの1人なんですか。
黒坂:『シランクス』という作品だけは25、6年前に見てた記憶があるんです。それだけインパクトが強かった。その時、作家名までは覚えてなくて・・、今回まとめて見て「あー!あの人か!」っていう感じですね。ですので、初対面に近いですね。原田さんはどうですか?
原田:僕も本格的に見るのは初めてなんですよ。驚いたのは、手書きで描いたことによってできる紙の皺。僕も水彩で描くので紙に皺が寄るんです。普通は「その皺は夢を壊すから絶対直せ」って言われるんですよ。それを「これは面白いからそのままでいい」って言ってくれたのは黒坂さんだけで。ところがライアン・ラーキンを今回クリアな画面で観たら、皺をそのまま撮っていた。それがすごく魅力的で、生々しく、人間味に溢れてるな、と思いましたね。

黒坂:ライアン・ラーキンは超早熟の天才と言われています。早熟の天才で若死にした人っていうのはいっぱいいるんだけれども、早い時期に筆を絶ってこれだけの長い時間生きていた方って、あんまりいないですよね。
ラーキンの作品を見てデジャヴを感じたんですけれども、それはどういうことかと言うと僕は昔絵を習っていたことがあって、その頃好きだったのが明治の画家の青木繁。あの人もやっぱり20歳前後くらいで「海の幸」っていう明治の日本美術史を代表する作品を作った。彼の場合、28歳か29歳で結核で亡くなってますけれども。僕は(ライアンの映画を)ぱっと観た瞬間に彼を思い浮かべたんですよね。共通項としては、どちらも考え抜かれて完成度で圧倒するというものではなくて、むしろ完成度みたいなものを根底から否定するような・・・。
原田:そこは重要ですね。ヨーロッパで各国のアニメーションを立て続けに観たら、最近のアニメーションってデジタル化されていて完成度が高いんですよ。100%近く完成されている。でも1本、2本を観ているうちはいいんですけど、連続してみていると退屈になってくると言うか・・。
黒坂:みんな同じに観えちゃう。
原田:どうせ完璧でしょ、ってことになっちゃう。もうちょっと生っぽいっていうか、ミスとかライブ感を含めて、そういうものが出ていった方が面白いんじゃないかと、思いましたね。
黒坂:完成度の話は今日のキーワードだと思うんだけど、僕の持論だと完成度と感動度はイコールだと思うんですよね。きれいに表面を繕ったり見栄えよくすることが、いつのまにか完成度にすり替えられている。

「感覚で突っ走っているみたいなんだけれども、実はすごくアカデミック」
原田:「ウォーキング」を観て思ったんですけど、歩きの連続写真をそのままトレースしてアニメーションとして映写しても、あんまり歩いてるようには見えない。ある程度の誇張が必要で、歩いてる時っていうのは、足をぽんと蹴って、中間でひきつけて地面に降ろす前にちょっと高く上げて、ぽんと降ろすときれいに見える。ラーキンの場合、それが徹底的にやられていたので、感覚的に好きで描いているというよりは、しっかり分析して描いているなあ、と思います。
黒坂:一見、右脳優先で感覚で突っ走っているみたいなんだけれども、実はすごくアカデミックな、古典的なところがある。一般的な意味で言う構成、あるいは起承転結みたいな言い方をすると、でたらめに思われてしまうかもしれない。どこが始めで、どこが終わりかもわからない。でも不思議にそれがバランスがとれているんですよね。

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=47762

執筆者

Yasuhiro Togawa