■大石内蔵助:阪東妻三郎「忠臣蔵(天の巻・地の巻)」(時代劇専門チャンネル)
(1938年・日活)−映画(白黒作品)−
監督: マキノ正博/池田富保    脚本: 山上伊太郎/瀧川紅葉
出演:阪東妻三郎/片岡千恵蔵/嵐寛寿郎/月形龍之介/沢村國太郎/尾上菊太郎/市川百々之助/
志村喬/山本嘉一/原健作/香川良介/轟夕起子/原駒子/花柳小菊/澤村貞子 ほか

気品溢れる、劇的な忠臣蔵。
“日本映画の父”として偉大な足跡を遺したマキノ省三の没後10周年忌記念作品。マキノ省三は、忠臣蔵の決定版を作ることをライフワークとし、『実録忠臣蔵』という作品を撮りながらフィルムを焼失。夢半ばにして失意のうちに亡くなった父の遺志を継いで、長男・マキノ正博が元マキノ一家と日活剣戟スターとともに作り上げた傑作である。阪東妻三郎・片岡千恵蔵・月形龍之介・澤村國太郎・嵐寛寿郎などかつてのマキノ出身の大スターが勢揃い。天の巻をマキノ正博、地の巻をマキノ出身の池田富保がそれぞれ監督しているのをはじめとして、脚本・撮影など主要なスタッフもすべて入れ替えて作られており、層の厚さを感じさせる。
 この作品の見どころはたいへん多く、”松の廊下”では、音を頼りに刃傷に及ぶという斬新な演出になっている。セリフ劇ではどうしても浅野内匠頭の心の内なる葛藤や、刃傷にいたるほど激昂する様子などを短い場面で描き切ることが難しいが、この演出によりみごとにセリフ劇の限界を超越して見せた。
また、マキノ省三によって生み出された立花左近という人物によって、後半に討ち入り以外の見せ場がないといわれる忠臣蔵に新たな見せ場を作ることにも成功している。歌舞伎の勧進帳風に描いた”東下り”は、大石内蔵助の正体に気づきながら、それを立花左近が見逃すという緊迫した場面を、阪妻と千恵蔵の魅せる腹芸の妙もあり、見るものの胸を打つ名場面に仕上げている。
阪妻演じる気品溢れる内蔵助と若き千恵蔵演じる内匠頭および立花左近の熱演はもとより、流麗を極めた演出が光る美しく上品な忠臣蔵の代表作といえるだろう。
現在残っているプリントは昭和31年12月12日再公開時のもので、初公開当初19巻だったものが12巻となっている。完全な形を見ることができないのが惜しまれてならない一作である。
12/1(土)、12/3(月)、12/5(水)、12/7(金)、12/30(日)

□時代劇専門チャンネル
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