この度『パラダイス・ナウ』でアカデミー賞®外国語映画賞にノミネートされ、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞、ベルリン国際映画祭ヨーロピアンフィルム賞を受賞し、続く『オマールの壁』でも再びアカデミー賞®外国語映画賞にノミネートされたハニ・アブ・アサド監督の最新作、『歌声にのった少年』が9月24日(土)より、新宿ピカデリー、他にて全国順次ロードショーとなります。全米の人気オーディション番組「アメリカン・アイドル」の中東版「アラブ・アイドル」に出場し、見事2013年の“アラブ・アイドル”に輝いたムハンマド・アッサーフ。本作は、彼の実話に基づいた感動のサクセス・ストーリーです。パレスチナ・ガザ地区で生まれたムハンマドは、命がけでガザを脱出し、その歌声の力で未来をつかみます。
 本作の見どころは、なんといってもムハンマドが歌う中東歌謡。オーディション番組で勝ち抜くたびに、ムハンマドの歌う中東歌謡が、パレスチナだけでなくアラブ圏全域に響き渡り、人々を勇気づけていく様子に心打たれます。

日本ではあまり耳慣れない中東の歌謡曲ですが、実は日本の演歌に通じる部分があるようです。日本人で唯一「アラブ・アイドル」に出場した経験を持つ子安菜穂さんによると、アラブ圏の歌は楽譜どおりに歌うパートと、歌う人の個性や技量をアピールする即興パートのマウェールに分かれ、好評化を得るにはこのマウェールがとても重要とのこと。そしてそのマウェールは、三波春夫さんの浪曲歌謡や八代亜紀さんの「舟歌」にも通じるところがあり、例えば、「♪沖の鷗に〜」のパートを、八代さんがその時々によって変化させて歌うように。あの自由に歌う感覚がマウェールに似ているそうです。つまりマウウェールは、日本の演歌の“こぶし”!?馴染みがないと思っていた中東歌謡も、そのような共通点があると思うと、ぐっと身近に感じるのではないでしょうか。

 また、子安さんによるとムハンマドが歌っているのは、“アイドル”とはいえ日本の演歌のような古い歌だそう。日本のアイドルとの違いに驚きますが、アラブ圏では古くから伝わる伝統の音楽を歌い継ぐのはごく普通のことなんだとか。広大なアラブ圏には私たち日本人が知らない豊かな文化や芸術があるんですね。
ムハンマドの歌う中東歌謡が存分に楽しめる本作は、ふだん耳慣れない中東歌謡と出会う良いきっかけになること間違いなし!

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執筆者

Yasuhiro Togawa