映画『アナーキー』シェイクスピアの「シンベリン」についてイーサン・ホーク、エド・ハリス、マイケル・アルメレイダ監督のコメントを紹介



マイケル・アルメレイダ監督がイーサン・ホークを主演に迎えた『ハムレット』に続き、再度シェイクスピア劇を映画化!舞台を現代に移し大胆にアクションを加えた、豪華キャストによる映画『アナーキー』(原題:CYMBELINE) 。新宿シネマカリテ(カリコレ 2015)にて絶賛公開中の本作、原作はシェイクスピアの「シンベリン」ですが、シェイクスピアについてイーサン・ホーク、エド・ハリス、マイケル・アルメレイダ監督からのコメントをお届けします。
「シンベリン」はとてもユニークな舞台だと思う。タイトルが「シンベリン」(※1)なのに、舞台の中で一番深堀されていないキャラだと思う。そこで私とマイケルはキャラクターの背景についてよく話しをしてディテールを付け足したんだ。どこから来たのか?妻との関係は?その他の登場人物との関係性は?といった具合にね。
マイケル監督はシーンやキャラクターの言動の裏側にどういった意味が隠されているのかという点を映像化することにとても優れていたと思うよ。
【※1)シンベリンはエド・ハリス演じるバイク・ギャング軍団「the Britons」の麻薬王の名前】
エド・ハリス
マイケル(監督)が『アナーキー』(シンベリン)の企画を僕に持ってきてくれた時、「これはもっと面白い作品になる。」と思ったんだ。『アナーキー』(シンベリン)は新たに構築し直すことができるストーリーだと思うんだ。なぜなら『ハムレット』に比べ、シェイクスピアの中でもあまり知られていない原作だからね。とてもエキサイティングな作品になるだろうと思ったよ。
シェイクスピアの後期の作品はロマンチズムとコメディ、そして痛々しいドラマが融合していると思う。「冬物語」、「テンペスト」、「アナーキー/シンベリン」がそれにあたるね。これらの作品にはとても似たトーンがあると思うんだ。
1 人の女性に対して男同士が争っていた方が、無事に結ばれているよりも興味が沸くと思う。シェイクスピアはそれを上手く表現しているよね。僕が演じたキャラクターはとても意地悪で極めて不快なキャラクターだったけど、何故そういった人物なのかは劇中にては説明されないよね。何故そういった人物なのかは、劇中から読み取る構造になっている。
シェイクスピアの原作に共通して言えることは、彼の原作は全て人間がテーマになっていることだと思う。シェイクスピア原作自体が人物造詣とストーリー構成に優れているから、マイケルが現代のエッセンスを加えることによってもっと楽しい作品に仕上がったと思う。
イーサン・ホーク
2000 年に公開されたイーサン・ホーク主演『ハムレット』の姉妹編と考えてもらっていい。目指しているのは、400 年前のシェイクスピアの戯曲に現代のリアリティを加えて、その登場人物、状況、テーマを現代と結びつけることだ。シェイクスピアが異なる神話時代(古代ローマやキリスト教以前のブリテンやウェールズ)を物語に融合していたように、今のアメリカのギャング文化、バイカー文化が持つ集団の同盟意識は、戯曲に描かれている昔の部族世界と融合できると思った。ペンシルベニア州スクラントンを視察して、工業化の栄光の影がくすぶる廃れた炭鉱の町を舞台に展開するアクションを思い描いた(予算の関係で、スクラントンのような場所を見つけて、ニューヨーク州の中だけで撮影した)。
『シンベリン』はとてもダイナミックで、さまざまな要素が詰まった物語だ。シェイクスピアの四大悲劇の要素を併せ持ち、神話のような壮大さもある。それに、男性登場人物の虚栄心と危険性に惹かれた。女性を信用できない、獰猛で情熱的な戦士たちだ。
一番影響を受けたのは、ヤン・コットの「シェイクスピアはわれらの同時代人」だ。この本では、シェイクスピア劇はいつの時代にも関連性があり、その劇を見る各世代の価値観や大切にするものを映し出す鏡だという考えを説いている。オーソン・ウェルズのシェイクスピア映画も参考にした。彼は低予算で撮った『マクベス』のことを「偉大な戯曲を、乱暴に木炭で描きなぐったスケッチだ」と表現した。HD ビデオを使って 20 日間で撮影した『アナーキー』は、手早く描いた水彩画のようなものだけど、首尾一貫した美しい絵になるよう、十分に計算し尽くされているよ。パゾリーニ監督の影響もある。最近、ニューヨーク近代美術館で開かれていた回顧展で、彼の映画を改めて見た。ソフォクレスやチョーサー、聖書といった有名な物語を、古典とモダンな要素を融合させ再生するパゾリーニの型破りな作風は、とてもスリリングだ。彼の映画のイメージには直感的な気づきがあるし、今見ても強烈で新鮮だと感じたよ。僕が初めて『シンベリン』を読んだ、両親の「シェイクスピア全集」に描かれていたロックウェル・ケントの挿絵に似ているところがある。
マイケル・アルメレイダ監督
新宿シネマカリテ(カリコレ 2015)にて絶賛公開中!!
関連作品
http://data.cinematopics.com/?p=53599
執筆者
Yasuhiro Togawa