先日、惜しまれながらも逝去された脚本家・橋本忍さん、俳優・加藤剛さんを偲び、映画『砂の器』シネマ・コンサートの特別追悼公演が決定した。(以下敬称略)
 映画『砂の器』は松本清張原作、橋本忍・山田洋次脚本、野村芳太郎監督により1974年に劇場公開された日本映画史に燦然と輝く不朽の名作。加藤剛は気鋭の音楽家・和賀英良を演じ、映画『砂の器』は加藤剛の代表作ともなった作品。
 映画『砂の器』シネマ・コンサートは、2017年夏に東京で初演され、今春には東京・大阪で再演されチケットが完売する大盛況となった。この度の橋本忍さん、加藤剛さんの訃報を受け、急遽再々演が決定。シネマ・コンサートは劇中のセリフや効果音はそのままに音楽パートをオーケストラが生演奏する映画上映とコンサートの複合型イベント。『砂の器』は、後半のクライマックスシーンで演奏される組曲「宿命」が観る者の心を熱くする、まさにシネマ・コンサートでご堪能いただきたい作品である。

 特別追悼『砂の器』シネマ・コンサートの開催を間近に控え、『砂の器』が時を越えて語り継がれる傑作となった理由を、組曲「宿命」を通して考えてみたい。
 小説「砂の器」は、1960年から61年にかけて読売新聞に連載された松本清張の推理小説。社会派で知られる清張は、都会の片隅で起きた殺人事件を追って日本列島を奔走する2人の刑事による捜査を通して、日本の暗部に光を当てる社会派作品を生み出した。発表と同時に映画化が企画されるも難航、実に14年の歳月を経て映画化へとこぎ着けた。
 一時は映画化が不可能といわれた『砂の器』映画化を誰よりも望んだのは、野村芳太郎監督と共に14年間粘り続けた脚本家の橋本忍だった。劇場公開時のパンフレットに、「一人で生まれてくることはできない。一人で生きていくこともできない」と記した橋本は、松本清張の小説に、「孤独な魂の叫び」を感じとった。その想いは、加藤剛が演じた新進気鋭の作曲家、和賀英良に集約されて描かれる。事件を追って東北から近畿、中国地方から中部へと捜査を進めるふたりの刑事。捜査線上に、大物政治家の娘と婚約した世界的な活躍が期待される音楽家が浮かびあがる。初リサイタルのために組曲「宿命」の作曲を進めていく和賀には、誰にも知られたくない秘密があった。それは宿命なのか。和賀の苦悩が「宿命」に集約されているのだ。橋本忍と共に脚本に携わった山田洋次監督は、「構成の鬼といわれたこの人から、シナリオの根幹はフレーム(骨組み)にあるということを、ぼくは叩きこまれるように教わった。まさに”師”の名に値する人だった。黒澤明と共に『羅生門』や『七人の侍』を世に出した、日本が世界に誇るに足る偉大な映画人を、ぼくたちは失った」と別れを惜しんでいる。
 橋本忍の映画化への執念が結実、組曲「宿命」が40分間にわたって演奏される『砂の器』のクライマックスは圧巻だ。松本清張の小説では僅か数行でしかなかった描写が、懸命に捜査を進める刑事たちの会議シーン、自ら指揮棒を握り「宿命」の演奏を始める和賀、そして幼き日の父との旅路が重なり合う脚本に昇華され、言葉に出来ないカタルシスが訪れる。映画でしか表現のできない三つの要素が重なりあう、重厚で感動的なクライマックスこそ、『砂の器』が時を越えて語り継がれる傑作たる理由なのだ。
 『砂の器』シネマ・コンサートは、映画からの採譜によってスコア(譜面)を復刻した作曲家・和田薫が自らタクトを振り、ピアノは近藤嘉宏が担う。オーケストラは、国内屈指の名門、東京フィルハーモニー交響楽団がドラマティックな演奏を披露する。
 特別追悼『砂の器』シネマ・コンサートのチケットは各プレイガイドで絶賛発売中。当日券も発売予定。詳細はコンサート公式サイトを参照ください。

<特別追悼『砂の器』シネマ・コンサート/公演概要>
日時:2018年9月16日(日・祝前日) 開場17:00/開演18:00(終演21:00予定)
会場:東京国際フォーラム ホールA

シネマ・コンサート上映映画:
上映作品:映画『砂の器』(松竹・橋本プロ=提携作品/1974年10月19日劇場公開)
上演時間:2時間23分(途中休憩20分あり/上映作品は2005年リマスター版)
原作:松本清張/監督:野村芳太郎/脚本:橋本忍、山田洋次
撮影:川又昻/音楽監督:芥川也寸志/作曲:菅野光亮
出演:丹波哲郎/加藤剛/森田健作/島田陽子/山口果林/加藤嘉/緒形拳/佐分利信/渥美清 他

シネマ・コンサート出演:指揮:和田薫  ピアノ:近藤嘉宏  演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
チケット価格(税込/全席指定):S席9,800円/A席7,800円 ※未就学児入場不可
お問い合わせ ディスクガレージ 050-5533-0888 (平日12:00-19:00)

チケット絶賛発売中&当日券情報の詳細は<映画『砂の器』シネマ・コンサート/公式サイト>
http://promax.co.jp/sunanoutsuwa/

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