イギリス出身、来日30年目のジョン・ウィリアムズ監督(「いちばん美しい夏」、「スターフィッシュホテル」、「佐渡テンペスト」)が、100年前に書かれたフランツ・カフカの不条理文学「審判」との類似点を見出し、現代の東京を舞台に映画化した『審判』。

映画『審判』では、得体の知れない巨大な力、システムにコントロールされた理不尽で滑稽な出来事が、次々と主人公Kこと木村陽介の身に降りかかる。

主人公Kこと木村陽介を翻弄する4人の女に扮するのは、隣人の鈴木役に常石梨乃、廷吏の妻・アンナ役に川上史津子、鈴木の友人と名乗る望月役に早川知子、そして看護師・アズキ役に関根愛(めぐみ)。それぞれがKを翻弄する追加場面スチールとコメントがこの度公開された。
6月30日に渋谷・ユーロスペースにて公開ほか全国順次。

<隣人・鈴木役 常石梨乃コメント>

Kを翻弄する上で心がけたことは、『恥じらい』ですね。女の武器って色々あると思うんですが、私が演じさせて頂いた鈴木まりという人物は、大人が放つ色気という部分は持ち合わせていなくて、鈴木自身も、自分の武器はもっと違うところ、純真さにあると思っています。純真という場所から、違う場所に行きたくて、でも怖くて。そんな感情を恥じらっている彼女がいます。でもその恥じらいは、きっと彼、『K』を揺さぶるだろうと鈴木自身も分かってやっています(笑)恐ろしいです。 

監督のジョンは、脚本通りに役者が動こうとすると、カットをかけます。
予定調和を嫌って、はみ出してもいいから、自分(役)の欲求に忠実であれと。
そういう形で創られていった映画『審判』は、それぞれの欲がぶつかり合った揺れる作品でもあると思います。そういった揺れを楽しんで頂けたらと思います。


<廷吏の妻・アンナ役 川上史津子コメント>

初めての試写会直後の感想は「目を開けて見る悪夢のような映画!」というものでした。主人公・Kのあずかり知らぬところで、運命が悪い方へ、悪い方へと音を立てて転がってゆく…。わたしが演じたアンナの指示に従えば、Kはその悪夢から逃れられたかもしれない。でもKは従わなかった。普段であれば、自身の性的魅力を存分に発揮して難なく成功しているはずの「人助け」というミッションにアンナは失敗したのですね。何故でしょう?それはKが、一瞬でアンナにとって『特別な存在』になってしまったからなのですが…。その瞬間を、是非スクリーンで探して頂きたいと思います。

<鈴木の友人と名乗る望月役 早川知子コメント>

望月を演じる上での監督の演出は「網タイツでお願いします」「Kの調査のため体制側が送り込んだ諜報員という設定でいきましょう」という二点でした。ジョン監督の演出をもとに、Kを騙し窮地に陥れる過程を楽しむサイコパス的な要素をスパイスとして入れて役を作りました。

不条理文学の金字塔といわれるカフカ作品の魅力のひとつは風刺の効いたユーモアだと思います。ジョン監督はカフカのユーモアを活かし、見事なブラックコメディを生み出しました。翻弄されもがく主人公への感情移入を許さない達観した世界観も、とてもKafkaesque(カフカ風)でなんとも不気味です。ブラボー!


<看護師・アズキ役 関根愛(めぐみ)コメント>

いつもハッピーそうなアズキというキャラクターを演じるのに、タガが外れている感じを大事にしたいと思いました。近くにいる見知らぬ子供に「一緒に遊ぶ?」といってゲームに誘うときのような感じで、彼女はゲームを楽しんでいるだけで、Kに対して本当は何も求めていない、さらに自分は男性の存在によってハッピーになる訳じゃない、というメッセージにも見えます。その身の軽さを表現するのに参考にしたのはサリー・ホーキンスと「月曜日のユカ」の加賀まりこさん、あとはヒラヒラ舞ってきたかと思うとふっとどこかに消えてしまうちょうちょのうごきを何日か観察しました。

主人公Kは次々と女性を虜にしていくように描かれていますが、別の方向からみるとじつは女性たちには反抗と作戦があり、したたかにKを操っているのかもしれません。一辺倒にならない多様な解釈ができるのが『審判』の面白さだと思います。不条理な世界観だからこそ自分なりの「風穴」を探して観ていただけたら嬉しいです。
(c) Carl Vanassche