数々のベストセラーを手がけている直木賞作家・重松清が1996年に発表した傑作小説「幼な子われらに生まれ」。
刊行当時『ヴァイブレータ』『共喰い』などの脚本家・荒井晴彦が重松と「幼な子われらに生まれ」の映画化の約束を交わし、21年を経た今、監督・三島有紀子(『しあわせのパン』『繕い裁つ人』)の手によって、浅野忠信、田中麗奈、宮藤官九郎、寺島しのぶという個性溢れる豪華キャストで、ついに映画化が実現。8月26日(土)よりテアトル新宿・シネスイッチ銀座ほか全国にて公開いたします。
この度、本作の本編映像が解禁となります。

今回解禁するのは、浅野忠信演じる主人公の田中信(たなかまこと)が仕事終わりにスーツ姿でひとり、カラオケに訪れるシーン。再婚した妻・奈苗(田中麗奈)との間に新たな命を授かるも、「ツギハギだらけの家族に、もうひとり、新しい子供を加える必要があるんだろうか」と複雑な感情を抱きつつ、奈苗の連れ子・薫(南沙良)には嫌悪感を抱かれ、挙句の果てに「本当のお父さんに会わせてよ」と言われ親子関係はギクシャク。さらには、会社でも出向となり倉庫番勤務で現場のリーダーから嫌味を言われる始末。プライベートも仕事も上手くいかない信が、ひとりカラオケでストレスを発散する姿が描かれる。
皺のない清潔なYシャツにネクタイを緩めることなく、カラオケに没頭する信。音量を調整したり、画面の歌詞を目で追って直立で歌う姿は、田中信という生真面目な人物の性格をよく表している。
歌われるのは、エレファントカシマシの『悲しみの果て』である。
「悲しみの果てに/何があるかなんて/俺は知らない」という歌詞は、まさに信の心情に寄り添っている。ほんの少し先の未来である“悲しみの果て”について歌っているだけなのに、真っ直ぐでストレートで力強い歌詞は、信が抱える悲しみを的確にあらわしている。
浅野は、本作について「一見この話は信が【苦難を乗り越えて、父親として変わっていく】話に思えるけど、そうではない。信が変わるのではなく、信に関わる人たちが変わっていく話だ、と僕は思ったんです」と語り、自身が演じた信を「変われない男」ととらえる。『悲しみの果て』の「涙のあとには/笑いがあるはずさ/誰かが言ってた/本当なんだろう/いつもの俺を/笑っちまうんだろう」の歌詞にあるように、悲しみの果てを越えてから、「やっぱり何も変わってないな、いつもの俺だな」と思って笑うのだ。
歌そのものが感情であり、そんな歌だからこそ、聴き手の心に深く伝わっていく。誰もが抱える悲しみや怒りを、まるで代弁しているかのように田中信は存在し、『悲しみの果て』に乗せ発散させる本シーンは、今を生きる私たちへのエールでもある。

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