数々のベストセラーを手がけている直木賞作家・重松清が1996年に発表した傑作小説「幼な子われらに生まれ」。
刊行当時『ヴァイブレータ』『共喰い』などの脚本家・荒井晴彦が重松と「幼な子われらに生まれ」の映画化の約束を交わし、21年を経た今、監督・三島有紀子(『しあわせのパン』『繕い裁つ人』)の手によって、浅野忠信、田中麗奈、宮藤官九郎、寺島しのぶという個性溢れる豪華キャストで、ついに映画化が実現。8月26日(土)よりテアトル新宿・シネスイッチ銀座ほか全国にて公開いたします。

場面は、浅野忠信演じる田中信(たなかまこと)が、再婚した妻・奈苗(田中麗奈)と、夜、家の中で会話をする夫婦のシーン。信との子どもを妊娠している奈苗は、「病院で妊娠高血圧症と言われた」ことを信に伝え、「どうしよう…」と相談するが、信は黙ったまま。何かあったときに自分で考えるのではなく、夫に「どうしたらいい?」と判断を委ねてしまう“ぶらさがり系”の女性・奈苗に対し、信は「そういうの俺に聞かれても分かんないよ」と応えます。そんな信の冷たい反応に「あなたの子供なんだし、2人で考えよう」としがみつく奈苗。そして「自分の身体にいろいろなことが起きるんだったら、それはもう堕ろすしかないでしょ」と信は菜苗に言い放つ。「嫌よ、嫌よ」と奈苗が泣き拒む中、「ずっと考えてるけど、今だったら俺たち綺麗に別れられると思う。だから、子ども堕ろして別れよう」「あなたがそんなことなくても俺がもうだめでしょ」「もうあなたのことも薫(奈苗の連れ子)の事も全然分かんない」「子どもを堕ろして、別れよう。お金も全部払うから」と、は放たれる言葉は徐々にエスカレートしていきます。普段は静かで温和な口調の優しい父親である信ですが、このシーンではそれが崩壊。「ツギハギだらけの家族に、もうひとり新しい子供を加える必要があるんだろうか…」とずっと不安定な感情を抱え過ごしてきた信の中に溜まったものが、一気に溢れだし爆発するシーンです。別に狂っている感じではなく、当たり前のように言う姿は、まさにリアル。観る者の心をヒリヒリさせる凄みを感じさせます。
浅野さんも撮影中、ずっと不安定な気持ちを抱えていたといいます。監督も、浅野さんの中でいろいろ感情が渦巻いているのを分かりながら、この奈苗とのシーンで溜まった感情をぶつけてもらいたいと思い、見守りながらもあえて放っておいたといいます。「全部、結果に結びついていけばいいかなと思っている。完成したときに表情や芝居を見て絶対に納得してくれるだろうと信じているので。だからこそキレる寸前まで持っていって、キレる瞬間を撮らないと意味がなかった。共演者の皆さんにも、信と向き合ったときに感じたことをそのままぶつけてもらう、それが脚本の台詞と違ってもいい、そんな挑戦をしてもらった。そこは妥協できなかった」と語る監督。浅野さんも、完成した作品を観たときに、「(脚本を読んだときの)最初に感じた面白さが映画の中にもちゃんと入っていた。とてもいい作品が出来上がって救われた」とやりがいがあった現場であり、最高の結果が伴ったと語ります。

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