弱冠23歳の新鋭青柳拓のデビュー作。
故郷への郷愁と愛しさを奏でる“ほっこり”ドキュメンタリー。
・2017年座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル・コンペティション部門入賞。
・4月に開催された地元上映会では1000名以上の観客を動員、圧倒的な支持を集め、ついに全国劇場公開が実現。

◇衰えゆく地方から
総務省によれば平成27年に1億2千7百万人

だった日本の人口は今世紀の半ばには、25%近く減少し、高齢者(65歳以上)の割合は、39%近くになるという。1 地方の人口流出も止まらない。少子高齢化の波が地方を直撃している。本作の舞台となる市川大門は、2005年に隣接するふたつの町と合併し、山梨県市川三郷町となった。平安後期から「手すき和紙」が地場産業として定着し、今も、「市川和紙」として日本の障子紙の4割を生産している。2また、本作にも登場する「神明の花火大会」は、武田信玄の時代の狼煙が起源とされ、江戸時代からは日本三大花火に数えられたという。3この歴史ある町からも、若者たちは都会へと流出し続けている。本作の青柳拓もそのひとり。日本映画大学への進学を期に市川大門を離れた。
シャッター街となった故郷に若者たちの居場所はない。閉鎖された大型店舗の駐車場は、高齢者たちの溜まり場になっている。そんな街をヘルメット姿で歩き回る“不思議なおじさん”のことが青柳には気がかりだった。

◇根づいた「ノーマライゼーション」

青柳の父が働く障碍者の自立施設「地域活動支援センター」に通う渡井秀彦さんを街の人々は「ひいくん」と愛称して暖かく見守り、仕事の手伝いを託す。その表情に屈託はない。この街に生きる人として受け入れ、差別も偏見もない。厚労省が提唱し、バリアフリーや障碍者の自立や社会参加を促す「ノーマライゼーション」の理念が、この地に根付いていたのである。青柳は、コミュニティーにしっかりと根付いている「ひいくん」を主人公として、衰えつつある故郷・市川大門の変化と現実を描くことを決意する。青柳の叔父、電気店を営んでいた青柳正輝さんは、脳出血を患い認知症も併発しリハビリに励んでいるが、かつてこの街を趣味の写真で記録し続けていた。正輝さんの写真は、市川大門の変化を記録していた。その写真の一葉に、節分で鬼の面を被った「ひいくん」と幼い頃の青柳拓が写されていた。都会で暮らすことを決意していたはずの青柳が本作の制作過程で故郷に惹かれてゆく。

2017年座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル・コンペティション部門入賞。4月に開催された地元山梨での上映会では
1000名以上の観客を動員、圧倒的な支持を集め、ついに全国劇場公開が実現。
2017年/ 日本 / DCP / カラー/ 47分
http://mikotostyle.sakura.ne.jp/test/hikun/

9月2日(土)からポレポレ東中野にロードショーします。

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