『葛城事件』は6/18(土)より公開となります、『葛城事件』。本作は、次男が駅構内で無差別殺傷事件を起こしてしまう家族を、主人公である父親・葛城清(三浦友和)を中心に描いています。赤堀監督自身が2013年に作・演出・出演した劇団THE SHAMPOO HATの舞台「葛城事件」を改めて映画のために書き直した物語です。

三浦友和が演じる最悪な父・葛城清と並び大きな話題を集めているのが、清の抑圧に耐え切れず、やがて社会を恨み、無差別殺傷事件を起こしてしまう次男・稔の姿です。
舞台「葛城事件」は、初めて舞台に挑戦する新井浩文や、鈴木砂羽らの客演で話題を呼びました。舞台版は、2001年に起きた無差別殺傷事件“附属池田小事件”をモチーフに書かれており、新井浩文演じる葛城稔は根っからのサイコパスとして描かれ、その稔に翻弄され家族が崩壊していく物語です。父親役の葛城清は赤堀監督が演じました。

今回の映画『葛城事件』は、稔の人物造形を舞台版よりかなり変更しています。赤堀監督は、映画化に当たり、「付属池田小事件」だけをモチーフにせず、「土浦連続殺傷事件」「秋葉原通り魔事件」「池袋通り魔殺人事件」など、近年起きた様々な事件を参考に、犯人像やその公判の傍聴記録、事件を起こすに至った背景、家族像などを調べたそうです。その結果、多くの無差別殺人の加害者たちが事件を起こすに至る過程には、もちろん全てではありませんが、いくつかの共通点を見つけました。<強烈な親からの抑圧を感じている><幼い頃から落ち着きがなく、そのことを咎められ、いじめられ疎外されたりして皮肉れてしまう><社会に出ても仕事が長続きせず、そのことがコンプレックスとなり、社会に対して逆恨みするに至る>など。それらを反映させ、映画版では、自分の価値観を押し付ける抑圧的な父親の元に生まれ育った次男・稔を、劣等感からいつしか父親と社会を恨み、“一発逆転”と称してとんでもない事件を起こすといった、後天的に形成されたキャラクターとして描いています。実はどこにでもいそうな稔の姿は、観る者に「リアル過ぎて怖い」「稔みたいになっていたかもしれない・・・」と言わせるほどのリアリティを持っています。

https://www.youtube.com/watch?v=ZczqIqkEhIE

今回解禁する本編映像では、定職につかず引きこもりのように暮らしていることを、兄・保(新井浩文)に「早く仕事探せよ・・・」と嗜められた際、「見下してんじゃねーよ!」と激昂する姿や、事件を起こし死刑囚になった後に、彼と獄中結婚をした星野(田中麗奈)に対して高圧的にふるまい、「差し入れは現金にしろ」「缶コーヒーは甘い方で良いんだぞ!」など、全く反省の色が見られない態度を見せます。

稔役は、匿名性を持つ若手俳優にしたいという赤堀監督の希望で開かれたオーディションで、多くの若手有望株俳優の中から若葉竜也がこの役を掴みました。役を熱望するあまり「もしも役が演じられなかったら、劇場まで監督を刺しに行きます」とまで言ったほど。しかし撮影後は、「撮影時の記憶があまりない・・・」と語るほど、壮絶な撮影だったと述懐する若葉の迫真の演技は見逃せません。若葉は、大衆演劇「若葉劇団」出身で、幼い頃「チビ玉三兄弟」として注目を浴びたこともあり、その演技力には定評があります。実は、三浦友和の息子役を9年前にも演じています。

普通だったはずの家族が、なぜ崩壊し、稔という殺傷事件を起こした死刑囚を生み出してしまったのか。これは決して他人ごとではない、普通の家族が一歩間違ったら・・・という恐ろしさが精神的にじりじりと迫る作品です。

グリコ・森永事件、少年A、和歌山カレー事件、世田谷一家殺人事件…かかわった数々の事件に、新たに『葛城事件』が加わった。家族のカタチ、無差別殺人、死刑制度─そのどれもが未解決だ。
大谷昭宏(ジャーナリスト)

『葛城事件』に登場する葛城家の面々が見せる行動は、まさに私が知る殺人犯やその家族の”微妙な歪み”を体現している。一度に大きな負荷のかかった骨折ではなく、繰り返し小さな負荷を受けた末の疲労骨折のように、無意識のうちに破滅へと向かう状況を生み出すものだ。
小野一光(ノンフィクションライター)

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執筆者

Yasuhiro Togawa