この度、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督による青春シリーズ不朽の名作『冬冬の夏休み』(1984年)、『恋恋風塵』(1987年)がデジタル・リマスター版として、いよいよ今週末5月21日(土)より渋谷ユーロスペースほかにて全国順次公開されます。

『冬冬の夏休み』は、ホウ・シャオシェン監督が、妹と二人で祖父の家に預けられた少年のひと夏の出来事をノスタルジックに描いたドラマだ。
映画は、主人公トントンの卒業式シーンから始まる。体育館に子どもたちが整列し、卒業生代表の少女が答辞を読み上げている。会場には「蛍の光」が流れ、しばらくして「仰げば尊し」の合唱がはじまる。うっかり油断していると舞台が台湾であることを忘れてしまいそうな馴染み深い光景、しかし日本人なら不思議に感じずにいられないだろう。どうして台湾の学校で「仰げば尊し」が歌われるのだろう。

それは、もちろん、かつて日本が半世紀間この島を植民統治したため。1945年の敗戦と同時に、台湾は中華民国によって統合されたものの、皇民化政策により残された日本風の建築や唱歌は、日本で生まれたものでありながら、時が流れるうちに“台湾のもの”になった。

さらに、映画の幕切れ、夏休みも終わりが近づき、父が車で幼い兄妹を迎えに来る。車が走り出すと同時に流れるのは「赤とんぼ」のメロディーだ。祖父の住む田舎町で出来た友達に別れを告げながら、トントンは少しだけ成長したかのように見えるから不思議だ。

「仰げば尊し」ではじまり「赤とんぼ」で終わる台湾映画。のちにホウ・シャオシェン監督の代表作と呼ばれることになる『非情城市』(1989年)には、敗戦後日本に引き揚げることになった日本人校長の娘が、教室でオルガンを弾きながらやはり「赤とんぼ」を歌うシーンが出てくる。戦後世代の台湾人にとって「赤とんぼ」が植民地時代を象徴する楽曲のひとつとなっているといえよう。

候孝賢、朱天文、楊徳昌という外省人二世トリオが『冬冬の夏休み』を仕上げたのは1984年。実は、台湾で抗日映画が集中的に撮られてから、まだ数年しかたっていない頃だ。一方で、映画の冒頭でトントンは友人とディズニーランドに行く同級生について楽しげに会話を交わす。日本と台湾は、遠いのか近いのか。そのエキゾチシズムにそこはかとないノスタルジーを感じてしまう心情が感慨深い。

映画『冬冬の夏休み』『恋恋風塵』は5/21、ユーロスペースにて2週間限定公開後、全国順次ロードショー。

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執筆者

Yasuhiro Togawa