◆自分の居場所探しを繰り返していた生い立ち

本作で倍速再生と間違える程の英語でマシンガントークを繰り広げる”浴衣カウボーイ“を演じるのは、映画監督・緒方篤。海外でビデオアート作家として活躍後、日本では『脇役物語』(2010 年 主演:益岡徹・永作博美)で長編映画デビュー。しかしそれまでの経歴はとても変わっている。
2 歳までロンドンで過ごし帰国。両親共に日本人であったが、家庭内でも英語を話していた。父親に「日本の小学校に入ったら全部日本語だよ」を言われて呆然。小学校の先生が、「起立!礼!」と言って、皆が一斉に立ち上がったのに衝撃を受けたものの、一旦日本語を習得してからは、歴史に夢中になり本を読み漁り、学芸会でも主役をやったり、学校の人気者に。しかし先生からは「きちんと整列する事が出来ない」「皆と同じ行動が出来ない」と、叱られる事もあった。
中学 2 年生の時、ニューヨークに。名門ハーバード大学卒業後、帰国し大手コンピューターメーカー研究所に就職。本編中のエピソードにもあるように、レディー・ファーストが身についていたので、エレベーターでは女性が先に降りるのを待っていたら誰も降りず扉が閉まってしまう、といった珍事件ばかりが起きた。同時に、日本の職場に馴染めず、違和感が募っていったという。

◆世界に飛び出すことは怖くない!“自分にしかない個性”は宝物

両親の影響もあり国籍や民族、社会的経済的背景などの隔たりなく関わるようになっていったが、外国で生活すればそこでは自分は「外国人」として見られ、日本にいても外国にいても自分の居場所を見つけられずいた。そんな中もっとクリエイティブな天職を求め休職し、再び日本を飛び出しマサチューセッツ工科大学院へ。そこでビデオアートを学んだ事が人生の転機となった。クリエイティブな世界では「他人と違う個性」が最大の武器になる事を知った。
「アートと出会わなかったら、自分はいつまでも悩み続け自信も持てずにいたかもしれない」
「浴衣カウボーイ」は世界中で体験した文化の違いや、その場所に溶け込もうと努力し過ぎて人違いされてしまった珍事件を、緒方自身がコミカルに演じる。“満員電車になれる為に毎日 15 分自宅で練習”といって、ギュウギュウ詰めの洋服ダンスの中で過ごしたりするシンプルな笑いは世界でも受け入れられ、多くの映画祭で受賞をしている。
文化の違いを主題にした笑いというと、偏見や差別的な要素を含んでしまいがちだが、緒方自身の経験から生まれる笑いは単純明快である。そんな作品を笑いながら見ていると、「他人と異なるって?」という問いに対する答えが見えてくる筈である。そしてそれは、今の日本、世界に欠けているものではないだろうか。

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執筆者

Yasuhiro Togawa