本年度カンヌ国際映画祭ある視点部門におきまして、日本人初の“監督賞”に輝きました、黒沢清監督最新作『岸辺の旅』が現在日本とフランスで大ヒット公開中です。
この度は、本作主演の浅野忠信さんとは日本を代表する俳優として互いに厚い信頼をよせあう永瀬正敏さんがゲストとして来場することが決定。2ショットでのトークイベントいたしました。

『岸辺の旅』トークイベント 
11月3日(祝・火) 会場:テアトル新宿
登壇者:浅野忠信、永瀬正敏

浅野忠信「今日はありがとうございます。『岸辺の旅』が皆さんに良い反応を受けていてとても嬉しく思っています。そして今日は永瀬さんが来てくれてとても感謝しています。」
永瀬正敏「この前は僕の出演した映画『あん』のトークショーに浅野君に来ていただいたので、今日はぜひと思いました。作品も本当に素晴らしかったです。浅野君とこうして二人きりというトークショーは初めてで嬉しいです。」

◆お互いについて。
永瀬「『岸辺の旅』は夫婦の話ですが、夫婦じゃなくてもいろんな人に置き換えることができます。どなたも経験していることではないかと思います。僕自身の話をすれば、若い時に向こうに行ってしまった友達に、どうしてそうなったの?と僕はいまだに引きずっていることがあるので聞きたいし、死んだおじいちゃんとかにも会いたいな、とか。いろいろな思いがありながら最後まで見ていました。昔の浅野君は芝居しているのか、していないのか?役の砕き方が独特でしたね、彼に憧れている若い俳優がいっぱいいるんだろうと思っています。この映画での最後の消え方も素晴らしかったです。それに、浅野君は秘めた狂気がありますね。うわーっ来た!という瞬間があります。昔『FOCUS』という映画があってその時もラジオだけが映っていて、ずっと文句を言っているんですが、「うまい!」と思って観ていました。」
浅野「永瀬さんに褒めていただいて、嬉しいですね。僕は永瀬さんがおっしゃってくれたように若い頃は何も考えてなかったです(笑)。でも相米慎二監督に「君1回目をずっとやってくれ、僕はキョンキョンが撮りたいんだから、お前同じことを続けてくれないと困る」と言われて、それから変わりました。同じことを続けなければならないんだと。僕は、素朴な永瀬さんを見られたときに感動するんですよね。 「あん」のどら焼きを作っていた姿も素朴で、そういうところが好きなんだなよなと噛みしめています。」

◆黒沢清監督と日本映画について
浅野「監督によっては現場で細かく言ってくる人もいるじゃないですか、「これを左手で持ってどうして、こうして…」と。そうなると「それやらなくてもいいんじゃないかな」と思うときもあるけど、黒沢監督は「これはやらなくてもいいんですけど、例えば左手で持つということがあるんでしょうかね?いや持たなくてもいいんですが」という言い方をされるので、「それはもうやりましょうよ」となるんですよ。僕が思いもつかないようなことを考えてくれているんだなと思いますよ。監督のもっている世界観を現場で感じます。」

永瀬「僕はあんな小松政夫さんを見たことがなかったです。やっぱり黒沢監督の演出なんだなと思いますね。浅野君とはしばらく一緒に映画でがっつりやっていないので、一緒にやりたいなと思いますね。それが黒沢さんだったら素晴らしいですね。」

浅野「思い切り正義と悪をやらせていただくとかね」

◆海外の映画について
浅野「学校の教育も関係あるのかもしれませんが、日本にいると自分で主張しないでも何とかやっていけますが、海外では主張しないとやっていけないですね。意見を言えないと「じゃ、次の人」となってしまいます。だから自分でいろいろ考えていいんだなと最近しみじみ感じますね。」
永瀬「僕は海外の映画と言っても独立系の映画なので、現場に行ったら「ナガセ見て俺もやっとキャンパーをもらえるようになったよ」というような感じですからね(笑) でも意見を求められることが多いと思いますね。「台本にはこうあるけど、君はどう思う?」というように。『KANO』は台湾の皆さんに話を作っていただいたので、「当時の日本人が分からないので教えてください」と言って下さり、ちゃんと作ってくれようとしているのがひしひしと分かったので、良かったです。台湾映画、とてもいいですよ。」

浅野「日本映画で取り込むべきことは休憩なんじゃないですか(笑)。僕らは俳優だから出番の時だけ行けば良いですけど、スタッフさんは休んでいないので「君、休みなさい」と思うことがあります。」
永瀬「そうですね、休憩です(笑)。僕らの時代はフィルムだったので、とても時間がかかって大変だったけど、今は量産することはしやすくなったのかもしれませんね。一眼レフのカメラで映画が撮れるようになるかもしれないですしね。次の僕の映画は1週間で長編映画を撮りますからね、どう思います?何でそういうのを「やります」と言ってしまったのかな、かたや『KANO』は5ケ月かけて撮りました。そういえば、浅野君はスコセッシ監督の映画に出たんですよね、すごいね!」
浅野「ただスコセッシ監督のファンでしたから、まさか一緒に映画を撮れるとは思いませんでした。楽しかったです。その映画を台湾で撮っていました。」
永瀬「僕が台湾にいる間に妻夫木君がホウ・シャウシェン監督の映画の撮影をしていたり、いろんな人が撮影に来ましたが、僕は1930年代の映画を地方で撮影をしていたのでなかなか会えなくて。今は、浅野君や渡辺謙さんが海外との距離を縮めてくれていますからね。若い人は出やすくなるかもしれないし、黒沢さんの作品にデ・ニーロが出るとかそういう時代になってくると思います。
浅野「僕はずうずうしいだけなんです、深津さんのこともそうですし、マーティン・スコセッシ監督のこともとにかく念じました、あきらめずに。」
永瀬「映画は観てもらわないと始まらないので「すごいぞ」と周りの人に言っていただけたら良いなと思います。俳優は誰も手抜きせず、皆120%の思いで作っているので、映画館に来てほしいと思います」
浅野「映画を観ていただけるだけでなく、こういう風にトークショーができるのも良いと思っているので、これからもやりたいなと思っています。これからもできるように皆さんに猛プッシュしていただけるといいなと思います(笑)。お互いの作品の時にはやりましょうよ!」

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執筆者

Yasuhiro Togawa