圧倒的な監督スタイルと革新的な編集方式で、それまでの映画製作の様式を一変させた伝説の映画監督サム・ペキンパーの生涯に迫るドキュメンタリー映画『サム・ペキンパー 情熱と美学』が 9 月に日本初上映となります(東京・大阪ではサム・ペキンパー監督作品を併せて上映予定。上映作品は追ってお知らせいたします)。

南北戦争時代、北軍兵の頭皮を剥ごうとした南軍兵への復讐を描いたデビュー作『荒野のガンマン』、時代に取り残されたアウトローたちの壮絶な最後を描いた映画史に燦然と輝く傑作『ワイルドバンチ』、スティーヴ・マックイーン主演の男と女の逃走劇『ゲッタウェイ』、戦争の狂気と哀しみを描きカンヌ映画祭国際批評家連盟賞を受賞した『戦争のはらわた』など、革新的なスローモーション撮影によるバイオレンス描写で“血まみれのサム”という異名を持つサム・ペキンパー。シネフィルや映画製作者の間ではまさに映画の教科書・神話のような存在だが、同時に、商業主義のスタジオやプロデューサーとの絶えることのないトラブルの多さから、鬼のような怒れる存在と考えられてきた。そういったスキャンダルや対立も影響し、心臓発作で亡くなる 59 歳までに監督した作品は 14 本と多くは無い。

法律家の父が支える家父長制の厳格な一家に生まれた少年、詩を愛する繊細な青年、鬼軍曹の仮面を被った監督、そして薬物に苦しみながらも多くの仲間に愛し愛された男。多くの証言から、一人の男の孤独な戦いが硝煙と共に立ち上がる。没後 30 年を経た今もなお、その妥協のない徹底した映画監督としての姿勢も相俟って国内外を問わず多くの著名な映画人に影響を与え続け、いまや伝説となっている彼の人生。その肖像は悲劇と滑稽、成功と敗北、そして愛に満ちたものだった——。

監督を務めたのは、全 580 ページ・1050 枚の写真を掲載したペキンパーの伝記とも呼べる「PASSION & POETRY SAM PECKINPAH IN PICTURES」(日本未出版)を執筆した、映画史家であり映画製作者でもあるマイク・シーゲル。eBayで自身の厖大なコレクションの一部を売り、その資金と情熱で撮り上げた。
本作では晩年のペキンパーを始め、羽目を外し、衝突し、大酒を飲み、怒鳴り怒鳴られ、時を共にした俳優や製作者、そして家族が出演。時には愚痴であり、悪戯話し、おおよそ信じられない狂気の沙汰がイキイキと語られる本作は、1960〜1970年代の冒険心に溢れた映画作りの時代へわたしたちを連れ去り、あの頃の情熱と美学を「忘れちまったのか?」と問い掛ける。

2015年9月よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=54012

執筆者

Yasuhiro Togawa