世界のどこかの国を訪れると、その国のニュースになる。マーティン・スコセッシ監督の『クンドゥン』やブラット・ピット主演の『セブン・イヤーズ・イン・チベット』では、そのドラマチックな半生が映画にもなった。ただ、それらの多くは公の場での指導者としての姿、壇上にいるダライ・ラマ14世である。
本作では、今まで誰も見たことのないダライ・ラマ14世に出会うことになる。カメラは関係者以外には入ることのできない場所へと分け入っていく。そこに映し出されるのは、眼鏡をはずし、お茶をのみながらくつろぐ普段の姿。書物に目を通し、今も日々の課題を学ぶひとりの僧侶としての姿である。
また、街角で“ダライ・ラマ14世に聞きたいこと”を募る今までにない試みも。
「もし髪を伸ばせるならどんな髪型にしたいですか」「なぜ中国という大国にチベットという小国がきちんと主張することができるのでしょうか」「暴力のない強さとはなんなのか」など、様々な質問に法王自身が真剣に、時にユーモアたっぷりに答えてくれる。

本作『ダライ・ラマ14世』が紐解くのは、ダライ・ラマという存在そのものに他ならない。
過去のニュースや記者会見などの映像からは、ダライ・ラマ14世としての苦難の歩みとチベット
問題の本質が見えてくる。そして、本作ではチベット亡命政府のあるインドのダラムサラと、いまもチベットの伝統と風習が受け継がれるラダックへの取材を敢行。その映像からは、脈々と受け継がれるチベット仏教の教えと、その源流であるダライ・ラマの存在、そして亡命後にダライ・ラマ14世が人々と作り上げてきたものが浮き彫りになってくる。

最後にもうひとつ触れておきたい。それは、ダライ・ラマ14世の日本への想い。
作品中、法王はエールというべき期待を込めたメッセージを私たち日本人に送っている。戦後70年の今、そのメッセージをひとりでも多くの人に受け取ってほしい。

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執筆者

Yasuhiro Togawa