静かなる狂気の人間ドラマ。ベネット・ミラー監督最高傑作!
1996年 デュポン財閥御曹司によるレスリング五輪金メダリスト射殺事件を映画化

 故フィリップ・シーモア・ホフマン主演『カポーティ』(05)では作家トルーマン・カポーティを、ブラッド・ピット主演『マネーボール』(11)では革新的球団運営で野球界の常識を変えたGMを、これまで実在の人物と事件を丹念に描いてきたベネット・ミラー監督。最新作は1996年に全米を震撼させたデュポン財閥御曹司によるレスリング五輪金メダリスト射殺事件を映画化。孤独、葛藤、富と名声、心の暗部でつながれた大富豪とレスリング金メダリストの病的ともいえる心理を鮮烈に描き、見事カンヌ国際映画祭監督賞を受賞した。
 出演は犯人でデュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンにスティーヴ・カレル。事件に巻き込まれていく五輪メダリスト兄弟の兄をマーク・ラファロ、弟をチャニング・テイタムが演じている。『リトル・ミス・サンシャイン』などのヒットコメディで活躍してきたカレルが自身初のシリアスな役柄を怪演、さらに存命するメダリストの弟を鬼気迫る演技で熱演したテイタムが共に新境地ともいえる演技を披露し、ダブルでのアカデミー主演男優賞ノミネートが有力視されている。

全米各誌から絶賛の声続々!
コメディ俳優から一転 スティーブ・カレル新境地で自身初の“アカデミー賞 主演男優賞”を狙う

 今回解禁となった特報には、「素晴らしい映画、最高の演技だった。(Katie L. Connor/ COSMOPOLITAN)」「驚くべき演技満載、文句なしのアカデミー賞候補(Mara Reinstein, US MAGAZINE)」など、全米各誌から早くも「アカデミー賞 主演男優賞候補」と呼び声高いスティーブ・カレルの演技が映し出されている。
 
 スティーブ・カレルと言えば、2週間の間“全米1位”を保持し続けた『40歳の童貞男』で初主演を飾り、それ以降『ブルース・オールマイティ』や『40オトコの恋愛事情』『リトル・ミス・サンシャイン』など数々のヒットコメディには欠かせない役者となって、ゴールデン・グローブ賞の「ミュージカル・コメディ部門 主演男優賞」や「全米俳優組合賞コメディ部門 助演男優賞」など、ハリウッドでもコメディ俳優としての才能は映画界では既にお墨付きである。
 
 そのスティーブ・カレルが本作では、五輪金メダリストを殺害したデュポン財閥御曹司ジョン・デュポンを演じ、コメディ俳優から一転、シリアスな役柄に挑んだ。その姿は、スティーブ・カレル本人とは全く顔つきも異なる別人で、同じく今回解禁となった新場面写真に映るスティーブの姿に驚かないことはないだろう。

 映画の撮影に入るずっと前に、ベネット・ミラー監督はスティーブ・カレルはじめ、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ3人の主要俳優全員に通常にはないほどの長い期間、彼らが演じる実在の人物たちの人生に没入する時間を与えたと言う。そうして撮影に挑んだ際スティーブの姿は、「スティーブが初めてデュポンとして歩み出てきたとき、僕には悪寒が走った」とマーク・ラファロに言わしめたほど。ベネット・ミラー監督が俳優たちに役作りの準備のために与えた資料ビデオのうち200時間はデュポンに関連したものであり、マーク・ラファロもデュポンがどのような人物で、どのようにして話し、どう振る舞うか、を大変身近に感じたと語っているが、それ以上にデュポンの特性を捉えるスティーブの能力があまりにも「気味が悪く、異様なほど正確だった」と振り返っている。それは、マーク・ラファロ演じるデュポンに殺害された金メダリスト“デイヴ・シュルツ”の実際の未亡人ナンシー・シュルツにでさえ、「スティーブ演じるデュポンは見ていて居心地が悪く、とても落ち着かなかった」と言われるほどの徹底ぶり。さらにはよりデュポンに近づくために、スティーブは「鼻」も付け、心身ともにデュポンに成りきった。

 ジョン・デュポンほどの“心の闇と狂気”を持つ役柄を演じる役者にスティーブ・カレルをキャスティングした理由について、ベネット・ミラー監督は「スティーブは異様で風変わりな演技が出来ることは、分かっていた。」と、その起用に自信をのぞかせる。「デュポンの役に予測できるような俳優を置くことはできない。なぜならこのキャラクターの本質が予測出来ない人物であるからだ。」
 
 見事、ベネット・ミラー監督の期待に応えるかたちで新境地を見せたスティーブ・カレル。2005年に『カポーティ』で学生時代からの盟友、故フィリップ・シーモア・ホフマンにアカデミー賞主演男優賞をもたらしたベネット・ミラー監督。今度は本年度アカデミー賞で、スティーブ・カレルに自身初となる「主演男優賞」をもたらすことが出来るだろうか。
今後の賞レースに引き続き注目したい。

特報::http://youtu.be/m8YsXItbmUA

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執筆者

Yasuhiro Togawa