本作は、年上のかつての恋人を探しにソウルへとやってくる日本人のお話。彼女を探してソウルの街をいったりきたりする加瀬亮演じる主人公モリが、常に持ち歩いている本。それが、吉田健一『時間』です。バラバラになった手紙の順で映画は進み、時制が前後します。敢えてそのような手法を取ることで、どういった効果があるか?ホン・サンス監督の遊び心あふれる時間についての考察。撮影の際にはこのような構成になることは明かされていなかったのですが、そこに加瀬亮が『時間』という本を私物で持ってソウルへ現れるという奇跡が起きました。劇中では、モリが『時間』について話すシーンも登場し、映画を見た誰もがモリが何の本を読んでいるかが気になること間違いなし。現に、満席が続くほどの盛況だった日本のマスコミ向け試写でも、本についての問い合わせは多く、とある映画ライターによると、その反響のせいかネットストアにて品切れが出ていたこともあったとか。

最近、評伝も発売されて改めて注目の集まる吉田健一。その代表作「時間」と、ホン・サンス監督『自由が丘で』の出会いは、加瀬亮とホン・サンス監督とのような運命の出会い!「いままでにない、映画と本の出会いですね!」と講談社文芸文庫の森山悦子さんも本作をご覧になって感動し、この度「時間」の重版が急遽決定致しました。映画関連書籍の重版は珍しくない中で、今回のような関係での重版は極めてまれ。「「時間」は哲学的な評論で、これをそのまま映画化するのはおそらく不可能なのですが、『自由が丘で』のような映画ならではのアプローチは嬉しい驚きでした。1998年の刊行以来十数年にわたって読み継がれてきたロングセラー『時間』が、『自由が丘で」との出会いでさらに新たな読者の手に届くことを願っています。」と森山さん。11月20日に重版される本作には『自由が丘で』の帯がつきます!下北沢の本屋B&Bにて、12月6日(土)町山広美さん(放送作家・コラムニスト)と倉本さおりさん(書評家・ライター)による公開記念イベントも行なわれる予定です。

吉田健一著「時間」講談社文芸文庫 
ISBN4-06-197634-6 定価1300円(税別)

人生の中で時間が流れていく、ということの意味を考え現代文明の偏見を脱して捉われの無い自由な自分となる。文化の真の円熟や優雅さは十八世紀西欧にあるとの『ヨオロツパの世紀末』を著した著者が、その最晩年に到達した人間的考察の頂点にして、心和む哲学的な時間論。『時間』を書き上げると残っているものを全部出したと感じる、と述懐した批評家吉田健一の代表作。

町山広美(放送作家・コラムニスト)× 倉本さおり(書評家・ライター)
「バラバラになった手紙と記憶の曖昧さ —ホン・サンス流、恋愛と時間についての考察」

加瀬亮×ホン・サンス監督、日本での出会いが生んだ映画『自由が丘で』。劇中には吉田健一「時間」も登場し、本好きの心もくすぐります。映画の公開を記念し、ホン・サンス映画をずっとみている放送作家・コラムニストの町山広美さんと、文芸誌にて加瀬亮さんへのインタビューもしている書評家・ライター倉本さおりさんに、ホン・サンス映画の魅力と『自由が丘で』について、自由にお話いただきます。

日時:12月6日(土)15:00〜17:00
場所:本屋B&B 
http://bookandbeer.com/blog/event/20141206_a_jiyugaokade/

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執筆者

Yasuhiro TogawaYasuhiro Togawa