大量破壊兵器保有を口実に、2003 年 3 月の米英軍によるバグダッド空爆から始まったイラク戦争。2011 年にオバマ米大統領が「イラク戦争終結」を宣言し、米軍はイラクから撤退したが、いまなお混乱は続き、2014 年 8 月に米軍はイラク北部を再び空爆した。おびただしい死者と引き換えに、イラクの人々が時折抱いた希望は、浮かんでは消え、“イラクの春”は、砂塵と爆音のかなたにかすむ。日本も支持した戦争は何をもたらしたのか?
2013 年 3 月、ジャーナリストの綿井健陽は、これまで出会ったイラク市民の写真を手にバグダッド市街を走り回っていた。開戦前夜、空爆、米軍による制圧と占領、宗派抗争、爆弾テロ……様々な局面を取材し続けてきた綿井が、彼らの人生の「その後」を追い、戦乱の 10 年を描き出す。

出会いと、別れ——あるイラク人家族との 10 年の記録。

10 年前、チグリス川周辺を襲ったあの激しい空爆の翌日、綿井はバクダッド市内の病院で多くの空爆犠牲者たちと出会った。全身血だらけの娘シャハッド(当時 5 歳)を抱きかかえるアリ・サクバン(当時 31 歳)。彼はこの空爆で 3 人の幼い子どもを失った。同世代のアリに魅かれ、その後もサクバン一家を追い続けた綿井は、開戦から 10 年目に再会するはずだったが……。
本作は、ある家族と綿井との 10 年の記録でもある。「爆弾テロでイラク人が何人死亡」とだけ報じられるニュースの向こう側で、かつての少女は大人になり、ともに戦火をくぐりぬけ、親交を深めた友は命を落としていた。開戦当時三十代だった綿井自身が不惑を過ぎた。生き残ったイラクの人々は、終わることのない戦乱に疲れ果てていた。それでもなお、「戦争の日常」を懸命に生きる彼らの姿と表情と言葉を映像に刻みつける。

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執筆者

Yasuhiro Togawa