スパイ小説の大家『裏切りのサーカス』のジョン・ル・カレがあぶり出す、“現代”の<リアル>諜報戦。

 この度、プレシディオが配給いたします、フィリップ・シーモア・ホフマンが遺した最後の主演作『A MOST WANTED MAN』(原題)の邦題が『誰よりも狙われた男』に決定し、10月よりTOHOシネマズシャンテ他にて全国公開することが決定いたしました。

当代最高の名優であり、映画人たちから絶大な尊敬と信頼を得ているフィリップ・シーモア・ホフマン。『カポーティ』ではアカデミー賞主演男優賞に輝き、昨年も『ザ・マスター』での鬼気迫る演技で我々を魅了したばかり。しかし2014年2月2日、N.Y.の自宅で彼の遺体が発見。突然の訃報に世界中が衝撃を受け、打ちひしがれた。まだ46歳の若さだった。

原作は映画化作品『裏切りのサーカス』の大ヒットが記憶に新しいスパイ小説の大家、ジョン・ル・カレが2008年に発表した傑作ミステリー。本作が描くのは“9.11”以降の複雑な今の時代。冷戦時代の東西対立といったわかりやすい構図ではなく、テロ対策を軸にした現代の諜報戦をリアルに描き出しているのが、従来のスパイ物の多くと一線を画す特長である。奇しくも邦題は原作のタイトルでもある原題を活かす形となったが、本作を観ればその意味を知り、現代スパイの真実が明らかになるだろう。
ホフマンが演じるのは、ドイツ・ハンブルクの小さなテロ対策スパイチームを率いる男、ギュンター・バッハマン。酒とタバコを手離さず、組織との軋轢と闘いながら、己の信念を貫こうとするバッハマンの孤高の凄みや哀愁、人間臭さを、ホフマンはこれ以上ない深みで絶品の演技を披露している。

そして、ハンブルクの国際金融界を代表する、英国人銀行家トミー・ブルーを、アカデミー賞®に2度のノミネート経験を持つウィレム・デフォーを起用。ホフマンが「女性版バッハマンのようなところがある」と語るCIAをマーサ・サリヴァンには、ゴールデングローブ賞®受賞経験を持つロビン・ライト。さらに人気女優レイチェル・マクアダムスが、理想主義者の人権弁護士アナベル・リヒターを演じるなど、ハリウッドを中心に活躍する名うての俳優たちが集結した。

また、本作にとってとても重要な役であるイッサ・カルポフは、監督が「彼は掘り出し物だった。無名の素晴らしい俳優を見つけ出せたことは幸運だった」と語る、母国ロシアではよく知られているグレゴリー・ドブリギンが配役。その他、『東ベルリンから来た女』(12)に主演したドイツの名女優ニーナ・ホスが、バッハマンの忠実な右腕となるイルナ・フライ。ドイツのスター俳優ダニエル・ブリュールがバッハマンのチームに欠くことのできないマキシミリアンを好演している。

監督は『コントロール』『ラスト・ターゲット』のアントン・コービン。スタイリッシュな映像感覚と、伏線に伏線を重ねた繊細なストーリーテリングでル・カレの世界を独自に昇華し、知的で高品質のエンターテインメントに仕立てた本作は彼の最高傑作と言えるだろう。コービンは素晴らしい仕事を一緒に成し遂げた亡きホフマンに対し熱烈な賛辞を捧げ、「彼はこの映画を本当に誇りにしていたことを僕は知っている」と告白している。

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執筆者

Yasuhiro TogawaYasuhiro Togawa