8月下旬よりシアター・イメージフォーラムにて公開の映画、ツァイ・ミンリャン監督の『郊遊<ピクニック>』の日本オリジナル版予告編とポスタービジュアルが完成しました。

先日、プロモーション来日したツァイ・ミンリャン監督のインタビューを受け、邦題を『郊遊』から『郊遊<ピクニック>』に変更した本作。
ティザービジュアルや特報では、廃墟らしき場所に佇む男性の後ろ姿だけを映し出し、一切の説明を加えない海外版を使用していたが、この度完成した日本オリジナル版では、ツァイ・ミンリャン監督が作品に込めた意図に日本の配給サイドが応える形で、これを大胆に変更しました。

『郊遊<ピクニック>』は、台北の片隅で生きる、父と幼い息子と娘を中心に描かれた作品。三人は、水道も電気もない空き家で眠り、父は、不動産広告の看板を掲げ、路上に立ち続ける「人間立て看板」で、わずかな金を稼ぎ、子供たちは学校にも行かず、試食を目当てにスーパーマーケットの食品売り場をうろついている・・・、という日々。その貧しい暮らしは、人によっては辛く苦しいものに映るかもしれないが、ツァイ・ミンリャン監督は、悲惨な家族を描いたつもりではないという。「人間とは、生きていれば生活に束縛される。でも、彼らは、家賃を払う必要もなく、学校に通わなくてもいい。束縛から解放されて、街を漂流している。そこに私は<郊遊>(中国語でピクニックの意味)を重ねたんだ」と監督は語る。もちろん、これまでの作品で現代の孤独を見つめつづけて来たツァイ監督なので、ただの楽しいピクニックとはひと味もふた味も違うが、完成した日本版予告編とポスターは、まさにツァイ・ミンリャン流「ピクニック」になっている
ツァイ作品の顔、父を演じるリー・カンションとこちらもツァイ作品常連の女優チェン・シャンチーのエモーショナルなツーショット、そして、きらきらとした光に溢れた砂浜に遊ぶ子供たちのロングショット。父親が体現する人間の孤独と、子供たちの純粋なきらめきの交差、これがツァイ・ミンリャン流「ピクニック」の世界だ。
主演のリー・カンションはこの映画で、中華圏で最も歴史ある映画賞である金馬奨で最優秀主演男優賞を初受賞。審査員長のアン・リー監督が「驚くほど素晴らしい演技」と絶賛したその演技は要注目。そのリー・カンションの甥と姪が演じている兄妹のどんなに貧しい暮らしの中でも輝きを放つ命の瑞々しさも映画の強い魅力になっている。
劇場映画としては、これが引退作となるツァイ・ミンリャン最後の傑作。まずは予告編とチラシでその世界に触れ、公開を楽しみにして欲しい。

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執筆者

Yasuhiro Togawa