5/30より新宿シネマカリテにて公開しておりました『ターニング・タイド 希望の海』は、シネマカリテ・コレクション内で動員アベレージがかなり高いことから、新宿武蔵野館に場所を移し、続映が決定いたしました。

フランソワ・クリュゼ/インタビュー(オフィシャル&日本についての+α電話取材)

1)初めて脚本を読んだ時、どんなことを思われましたか。
自分が信用に足る人間か、あるいはどうすれば信用に足るようになれるか、すぐに自問したよ。自分の役がどんな人物かを想像することができたとしても、それを船の上で、物理的にどう表現すべきかとね。主人公がハイレベルのスポーツマンだということは、ヴァンデ・グローブの※1スキッパーたちと仲良くなってみて分かった。彼らはレースに向けて4年間、肉体的にも、とりわけ精神的にも準備をする。とにかく、ものすごく強靭なんだ。僕ら俳優と共通点があるとしたら集中力で、それがうまくハマったのさ。
それにスキッパーであるからには、技術的な動作を正確に理解してなきゃならなかった。ヨットの世界にどっぷり浸かって、熱心に学んだよ。それから台本を読みながら、この物語においてスポーツのパフォーマンス以上に大切なのは、私が演じる主人公と少年の関係であると感じた。そのことについて、長い付き合いのクリストフ・オーファンスタン監督と話し合ったんだ。少年マノ役には、しっかりした若い俳優を選ぶ必要があった。複雑な自然状況や難しい撮影条件が待っていたからね。なんせ、海が支配する世界だ。
サミ・セギール(少年マノ役)は撮影で、彼に備わったあらゆる才能を証明してくれた。たとえばある日、サミを船室で突き飛ばさなくちゃならないシーンがあってね。彼にはあらかじめ、もしキツかったら手加減するからねと言ってあった。そして突き飛ばしたんだが、あまり力を入れなかったら、彼はケガをするリスクも顧みず、船室に自分から突っ込んで行ったんだ。出し惜しみしない役者ってやつだね。

2)映画出演を承諾してから、この非常に特殊な撮影に向けて、どんな準備をされたのですか。
未知の要素があまりにも多いものだから、とにかく情熱とやる気を持って熱心に取り組むのが一番だと思ったね。私たちは皆、監督のクリストフを中心に固く結束していた。もちろん、不安な点もあったことは確かだ。クルーズ船に乗るのではないし、ヨットはすごいスピードで進むだろうし、風や波があるだろうし、揺れが激しいであろうことは分かっていた。でもクリストフが撮影監督をやって、ギョーム・カネと共同作業した※22本の映画以来、クリストフには絶大な信頼を寄せていたから、私は1000%の力をこの作品に傾ける覚悟だったんだ。

3)演技についてですが、狭い空間でスキッパーの動作と演技を同時にこなすのは、複雑ではなかったですか。
実際には、そういったすべての制約のおかげで、自分が役者として最も望ましいと思うことが達成できた。それはつまり、台本に可能な限り近づくこと、パフォーマンスやわざとらしい演技を避けること、そして極限まで集中すること。私は潜水するように演じるところがあるんだ。1つのカットが終わると、一瞬リラックスして他のことを考え、それからすぐに次のカットへと潜る。それが役になりきる唯一の方法なのさ。何があっても集中力だけは失わないこと。一人用に設計されたヨットに18人も乗り込んでいる中で、撮影クルーの存在を忘れること。自然の力に立ち向かいながら、それぞれのシーンがどのように展開し、どんなニュアンスを含んでいるかに気を配ること。何よりラッキーだったのは、船酔いしない体質だったってことだね。
それから、撮影クルーのほぼ全員と知り合いだったんだが、この撮影が皆にとって一種の挑戦であり、それぞれが自分のベストを尽くす覚悟だってことを感じていた。それはすごく刺激になったね。個人のエゴが出る幕はなかった。正真正銘のチームだよ。

4)撮影のために講習を受け、何日も沖で過ごし、※3アルメル・ルクレアックと海に出られて、もうすっかりヨットのプロですね。
スクリーン上ではそうありたいね! だけど船上ではおっかなびっくりの時もあったんだ。何度も船べりから落ちるかと思ったよ。本来スキッパーは救命胴衣を着用しないといけないんだが、実際にはめったに着ていない。だから私も観光客っぽく見えないようにと、救命胴衣は着なかったんだ。海に落ちるかもしれないという強迫観念に駆られながら、船の上を歩いていた。でも、それもゲームのうちだった。大好きなジャック・ブレルの言葉がある。「才能とはやる気のことだ」。つまり、やる気になったその瞬間から、誰もが才能の持ち主になるのさ。
クリストフの初監督作品に出演できて、そこで自分のベストを尽くせて、すごく嬉しかった。私を選んでくれた彼の信頼に応えられたと思うよ。

※1 ヨット競技で舵を握る者のこと
※2 『唇を閉ざせ』(06)と、『君のいないサマーデイズ』(10)
※3 ヴァンデ・グローブで2度、2位になったフランスのプロヨット選手

5)来日されたことはありますか。

私も妻も日本の大ファンなんだ。日本の文化、フランスに入ってくる日本に関するあらゆることにね。本当ならちょうど今ごろ、日本にいて日本発見の旅をしているはずだったんだ。ただ諸般の事情で断念することになった。でも来年の5月あるいは6月の丸々一ヶ月、日本に滞在する計画を立てている。妻も私もあなたがたの国のファンなんだよ。日本の文化、日本が世界にもたらした貢献に対して賞賛の気持ちを抱いている。そして、私には無条件で大好きな日本人の作家が2人いる。ひとりは奥田英朗。もうひとり敬愛しているのは小川洋子。オガワは何作もの傑作を生み出している。なかでも『博士の愛した数式』という傑作がある。ちょうどオガワの『密やかな結晶』が届いたとこなので、早く読みたくてうずうずしてるよ。

6)どんな映画がお好きですか。

私が影響を受けた重要な作品はもちろんある。ヨーロッパ映画、アメリカ映画、日本の映画にだってあるよ。日本にも巨匠がいるよね。世界中で高く評価されている小津や、黒沢。若い人はあまり知らないけどね。私が惹かれる映画は、ヒューマニズムにあふれる作品なんだ。ストーリーの中で主人公が少しずつ成長していく作品。年を重ねるにつれて、状況に順応することの大切さ、時には間違いを認めること、自分のことを反省してみることの大切さに気づかされる。恋愛映画にせよ心理的な感情を描いた映画にせよ、登場人物が少しずつ成長していく作品が好きなんだ。私たち俳優の仕事は、観客に彼らのポテンシャル(潜在的な力)を提示することにあると思う。登場人物を通して、同じだけのポテンシャルが自分たちにもあるんだ、と見ている人たちに気がついてもらうこと、それが俳優の仕事だ。登場人物の感性、勇気、誠実さ、自発性に感化されてね。そういうわけで私の好きな映画は全ておのずと「役者で魅せる映画」ということになるんだ。「監督の技量で魅せる映画」というよりね。

7)将来的には、メガホンをとって監督もしたいと思ってますか。

そうだね、奥田英朗の作品を監督として映画化したいと思ってるよ。でもさっき言ったようにフランスではほとんど翻訳されてなくてね。なのでまずは英語やドイツ語での翻訳を探しているところなんだ。伊良部という人物が大好きなんだよ。とても愉快な人物だ。フランスでも大ヒットすると確信しているね。

8)伊良部を演じるのもご自分で?

それはどうかな。肥満体らしいからね。どうかな。彼のクライアント(患者?)も非常に愉快な人物たちでね。私の頭では、やはり自分で監督をやって、私が大好きなフランスの役者たちをキャスティングし、ひょっとすると自分も脇役で出演するのもありかな。

9)将来的には監督の道もありうるわけですね。

そうだね、これまで積み重ねてきた経験があるので、次なるステップとしては自然なことだと思う。新人監督の作品に出演すると、自分の方がよくわかっているような気がするんだ。テーブルの色はどうしますか、とか、どんなイスがいいですか、とか監督にする質問に答えたいと思ってるよ。それにチームリーダーとしての力量や、良い監督としての度量が自分にもあることを自分自身に証明したいという気持ちもある。なので、間違いなく監督をすることになるだろうね。シナリオもずっと書いていたしね。それを自分で演出できると感じてきた。でも時の経つのは早くてね。仕事だけでなく、プライベートもあるからね。妻や子どもや家族との生活。それこそが、幸せを実感するために必要なことだからね。

10)シナリオも書いているんですか。

ずいぶん前から書いているけどまだ1本も日の目を見てない。役者のキャリアを優先してきたからだ。監督が専業なら別だけど、役者の仕事が入れば、シナリオ執筆は中断しなくてはならないし、オファーも次々と入ってくる。公開前にはプロモーションの仕事もある。なので、執筆というのは今のところ私の秘やかな情熱なんだ。でも、この数年のうちに映画化をめざしたいと思っているよ。

書いているのはコメディが多いんだ。だから伊良部のことを話したわけだ。コメディは、人間の感情を描くためには非常に重要なベクトルのひとつだと確信しているからね。

通訳を通して、奥田英朗と伊良部シリーズの翻訳化や噂があればぜひ情報をメイルでくれないかな。義務じゃないけどね。メイルアドレスを渡すから。

そこにいる皆さんにキス!
日本万歳! 日本人、日本女性万歳!

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執筆者

Yasuhiro Togawa