新しい形の地方発信映画として数々の賞に輝いた熊切和嘉監督『海炭市叙景』(2010)から3年。このたび、ふたたび函館市出身の作家、佐藤泰志(1949〜90年)の小説「そこのみにて光輝く」(河出文庫)を、市民有志らによる企画で映画化することが決まりました。佐藤泰志文学が再評価されるきっかけとなった『海炭市叙景』に続く函館市民発信映画の第2弾として、東京テアトルと函館シネマアイリス(北海道地区)の共同配給により、テアトル新宿ほかにて2014年に公開する運びとなります。

  20年前、今の日本を予期したような作品群を遺し、自ら命を絶った佐藤泰志。何度も芥川賞候補・三島賞候補に挙げられながらも、賞に恵まれなかった不遇の作家唯一の長編小説「そこのみにて光輝く」は89年に刊行。夏の函館を舞台に、愛を見失った男と愛を諦めた女との出会いを、底辺で生きる家族を慈しむような眼差しで描き、第2回三島由紀夫賞の候補となった佐藤の最高傑作である。刊行当時から多くの映画監督による映画化が企画されながらも実現に至らなかった「幻の企画」だが、発刊から24年を経て待望の映画化が実現する。

  主演には、その独特の空気感で人気を集め、映画界から今最も熱い視線を浴びる綾野剛が、ひとりの女を愛しぬく男・佐藤達夫を演じる。家族のために懸命に生きるヒロイン・大城千夏には、デビュー作『大阪物語』(市川準監督)で映画祭新人賞を総なめし、実力派女優として活躍を続ける池脇千鶴、千夏の弟・大城拓児には、『共喰い』(青山真治監督)の主演等で今後が期待される若手俳優・菅田将暉という、注目のキャストが揃った。監督を務めるのは、前作『オカンの嫁入り』で新藤兼人賞を受賞するなど、高い評価を得ている呉美保(オ ミポ)。「人の生き方、生きる姿を丁寧に描きたい」という呉監督のテーマのもと、あがき踏み出そうする達夫と千夏たちの人生の春夏秋冬を、リアリティをもって描き出す。脚本は『婚前特急』『さよなら渓谷』の高田亮。撮影は『海炭市叙景』の近藤龍人。6月下旬から始まり、オール函館ロケを敢行。函館の短く美しい夏を描いた珠玉のヒューマン・ラブストーリーが誕生する。
 
※クランクインを目前にした監督からのコメント※
骨太なキャスト、凄腕なスタッフと共に、愛すべき原作を映画にするため、函館にやってきました。いよいよだと思うと緊張しちゃいますが、がむしゃらに、やりたいことをやりきろうと思います。呉美保

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執筆者

Yasuhiro Togawa