京都造形芸術大学(京都市左京区/学長 尾池 和夫)映画学科の林海象監督(55 歳)がメガホンをとり、同学科の学生 60 名が各部門のプロフェッショナルとともに撮影した、稲垣足穂原作の映画『彌勒 MIROKU』が、7 月 20 日(土)・21 日(日)にフィルムオーケストラ付きで京都で封切られます。

『彌勒 MIROKU』は、林海象監督が 2002 年に、稲垣足穂氏のご遺族に映画化の許可願いの手紙を書くところから暖めてきた企画。立命館大学在学時に家出同然に京都を出て東京に向かい、寺山修二氏の天井桟敷に加わるも、どん底の極貧生活に陥り、餓死寸前の状態から、デビュー作『夢見るように眠りたい』を発表するまで這い上がった過去を持つ監督自身が、極貧の中、原稿用紙に向かう稲垣足穂の自伝的小説『弥勒』に想いを重ね合わせ、脚本も自ら書き下ろして準備。東日本大震災や原発事故、世界的な経済の行き詰まりなど苦しい社会情勢の中、精神的にも実際的にもどん底にいる人々に向けた這い上がるためのメッセージが、叙情的な作品の中に織り込まれています。

キャストは、主人公 江美留役を永瀬正敏氏、実在の画家 津田季穂氏がモデルといわれる「放浪画家T」を佐野史郎氏、極貧の主人公に「お前の目指す人間とは何か?」と迫る鬼の役を井浦新氏が務め、その他志賀勝氏、福本清三氏、近衛はな氏らプロの俳優とともに、主人公の少年時代の役を、映画俳優コース3回生(撮影当時)の土村芳(つちむら・かほ)が務めるほか、友人役など6名の学生が抜擢されました。

また、今回の映画は、既存の映画公開の枠組みを越え、独自の配給・宣伝を展開しているため、作品の内容から配給の仕方まで、通常受ける多くの制約を免れ、既存の常識を超えた実験が試みられているところが最大の特徴。作品中に実験的な映像を挟み込んで、叙情的で哲学的な稲垣足穂の世界に迫るほか、上映そのものも博物館や歌舞伎劇場、倉庫など、映画館の枠を超えた会場で、音楽家の渡邊崇氏が率いる team“Sound on Film”による生演奏付きで上映されます。人々の映画館離れが深刻化し、大量生産大量消費に基づいた配給宣伝の仕組みが崩壊している現在、「観たい人の元に自分たちの手で映画を届ける」という映画の草創期に立ち返った試みです。

京都造形芸術大学 映画学科(学科長 高橋伴明)は、第一線の映画人が集う自由で活気のある「撮影所」を学内に設けることで、学生に熱い生の学びの場を提供し、後に「北白川派」と呼ばれるような運動にまで発展することを志しており、学生とプロが一緒に劇場公開映画を撮影する企画を「北白川派」と名づけて取り組んでいます。2008 年に撮影された故木村威夫監督による『黄金花』を第1作目に、2009 年に高橋伴明監督(教授)による『MADE IN JAPAN〜こらッ!〜』、2011 年に山本起也監督(准教授)による『カミハテ商店』と撮影し、今回の『彌勒 MIROKU』は北白川派第 4作目。同学科の高橋伴明教授(プロデューサー)、山本起也教授(ラインプロデューサー)、嵩村裕司准教授(装飾)、浦田和治客員教授(録音)、伊藤高志教授(実験映像)、水上竜士准教授(俳優)ら各部門の現役プロフェッショナルの元、約 60 名の学生がスタッフあるいは出演者として参加しました。

上映スケジュール
<2013 年 5 月 28 日現在>

【フィルムオーケストラバージョン】
《京都》
◆2013 年 7 月 20 日(土)18:00〜/京都文化博物館別館〔入場料: 一般 5,000 円〕 ※チケット完売
※主演の永瀬正敏氏が来場します
◆2013 年 7 月 21 日(日)15:00〜/京都芸術劇場 春秋座〔入場料:一般 5,000 円 学生 2,000 円〕
※出演者全員が来場します
《神戸》
◆2013 年 8 月 10 日(土)15:00〜/神戸 KIITO ホール〔入場料(写真展料込):一般 5,000 円 学生 3,000 円〕
※主演の永瀬正敏氏が、撮影現場などで撮影した写真を展示した写真展を同時開催します。
《横浜》
◆2013 年 10 月 18 日(金)18:00〜/横浜 赤レンガ倉庫〔入場料:一般 5,000 円〕
《東京》
◆2013 年 10 月 22 日(火)・23 日(水)19:00〜/東京唐組紅テント〔入場料:一般 5,000 円〕
【映画版】
《横浜》
◆2013 年 10 月下旬〜(6ヶ月ロングラン決定)/横浜ジャック&ベティ
《東京》
◆2013 年秋(予定)/オーディトリウム渋谷
《京都》
◆2013 年秋(予定)/京都シネマ

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執筆者

Yasuhiro Togawa