何年も愛情を注いで育て来た我が子が、もし、他人の子だったとしたら。先頃のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した是枝裕和監督の『そして父になる』と同様に、“取り替え子”のドラマを描いた本作。それも、取り違えられた家族は、イスラエルとパレスチナ。たえず世界の紛争の火種となってきた、このふたつの国の子どもが、もし取り違えられたとしたら、家族はいったいどうやってその試練を乗り越えていくのだろう。世界がいまだ解決できない困難な問題を、家族という小さな単位の身近な問題としてとらえ、いま世界に必要な希望を感じさせる感動作だ。昨年の東京国際映画祭では、審査員の評価のみならず観客の感動も大きく、見事グランプリの栄誉に輝いた。

監督のロレーヌ・レヴィはユダヤ系フランス人で、パリで舞台演出家として活躍、本作が4本目の監督作。グランプリ受賞時に、「この賞をイスラエルとパレスチナの子供たちに捧げたい」と語っている。出演は、揺れながらも母の愛の強さを自然に溢れさせるイスラエル側の母親に、現在のフランスで最も尊敬を集める女優のひとりであるエマニュエル・ドゥヴォス、その息子を『ぼくセザール10歳半1m39cm』(03)の子役だったジュール・シトリュクが繊細に演じている。またパレスチナ側の息子を演じたベルギー出身の新進俳優マハディ・ダハビの知的な美しさも印象的だ。

東京国際映画祭の一昨年のグランプリは、日本で記録的な大ヒットとなった『最強のふたり』。2年連続でフランス映画のグランプリ受賞となった本作だけに、今から晩秋の公開に期待がかかる。

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執筆者

Yasuhiro Togawa