想像を超える未来を目撃する。

多くのハリウッドスターのなかでも、ここまで長くトップの座を維持し、なおかつチャレンジ精神を忘れず、進化を止めない俳優はいない。その名は—トム・クルーズ。どんな役を演じても、たぐいまれなカリスマ性を発揮し、他の俳優の追随を許さない存在は、もはや映画史におけるひとつの“現象”と言っていい。
 2012年、洋画のトップ興収を記録した『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』に続き、伝説のロックスターを怪演した『ロック・オブ・エイジズ』、そしてダークヒーローを演じた『アウトロー』と、観客の予想を超える快進撃を続けるトムが、新作『オブリビオン』で挑んだのは、崩壊後の地球でたったひとり、闘い続ける男。過去の彼のキャリアを振り返っても、ここまで予想不可能な運命をたどるキャラクターは初めてだ。
 物語の舞台は2077年。未知のエイリアンの襲撃を受け、荒れ果てた地球には、もはや人類の姿はなかった。わずかに生き残ったものは別の惑星への移住計画を進めるなか、地上をパトロールするのが、本作の主人公ジャック・ハーパーだ。機密保全によって過去の記憶を消されながらも、人類の未来を託されるという、孤独かつ複雑なヒーローとして、トム・クルーズの演技はさらに一段、深みを増している。トムには珍しく白い宇宙服をまとった姿も、ファンの目には新鮮に映ることだろう。さらに、これまでの作品で、凶悪犯から日本のサムライ、宇宙人まで多くの相手とバトルを繰り広げてきたトムにとっても、今回は“かつてない相手”との闘いまで用意され、そのシーンは本作の重要なポイントとなっている。
 共演者にも注目のキャストが集結した。地球に墜落した宇宙船に乗っていた女性ジュリアに、『007/慰めの報酬』でボンドガールを演じたオルガ・キュリレンコ。ジャックの失われた記憶の手がかりとなるヒロイン役でミステリアスなムードをかもし出している。さらに注目なのが、モーガン・フリーマンだ。『ミリオンダラー・ベイビー』でアカデミー賞助演男優賞を受賞し、『ダークナイト ライジング』など近年も話題作が続く彼が、壊滅した地上に潜み、ジャックの運命を左右する謎の男、ビーチを怪しさたっぷりに名演。物語全体のキーパーソンとして存在感を発揮する。そのほか、『ザ・ファイター』でアカデミー賞助演女優賞に輝いたメリッサ・レオら実力派が脇を固めている。
 そして本作の大きな見どころになっているのは、過去のどんな映画とも違う、近未来のセンセーショナルなビジュアルだ。ジャックが降り立つ地球には、NYのエンパイア・ステート・ビルや自由の女神、ワシントン記念塔、ペンタゴンと思われる象徴的な建造物や、かつてスーパーボウルが開催されたスタジアムなどが無惨に崩壊したシュールな風景が広がる。その一方、ジャックが地球上の隠れ家として使う山小屋は、自然の美しさが際立っている。また、ジャックと妻が生活する雲の上の居住空間「スカイタワー」は洗練されたインテリアで統一され、専用のプールが備わっているなど、未来的なデザインが観る者をラグジュアリーな気分にさせてくれる。ジャックが操縦するパトロール機「バブルシップ」や、地上を監視する「ドローン」の、機能的かつ斬新なスタイルにも目を奪われるはずだ。
 オリジナリティに溢れた世界観を演出したのは、前作『トロン:レガシー』でも独自の映像ワールドを創り出し、本作では原作となるグラフィック・ノベルを自身で執筆したジョセフ・コシンスキー監督だ。そしてプロデューサーに『猿の惑星:創世記』のピーター・チャーニン、ディラン・クラークが名を連ねたことで、ドラマとしても、重厚かつ一瞬先も読めない仕上がりになった。主人公ジャックの失われた記憶に、ジュリア、ビーチ、それぞれのキャラクターの視点によるストーリーが絡み合う後半は、さらに予期せぬ展開へとなだれ込んでいく。
 ジャックはなぜ、ひとりで地球を監視するのか? 彼の記憶は何のために断片的に残っているのか? そもそも彼は誰なのか? 要所での壮絶なアクションシーンで興奮を高めながら、さまざまな謎が明らかになるクライマックスでは、かつてない衝撃と感動に包まれる。トム・クルーズの新たな挑戦とともに、2013年、究極の映像体験を約束するのが、この『オブリビオン』なのだ。

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=51178

執筆者

Yasuhiro Togawa