映画『戦争と一人の女』には原作にはない人物が登場する。戦中から戦後にかけて七人もの女性を強姦し絞殺した小平義雄をモデルにした中国戦線からの帰還兵だ。映画の中でも帰還兵は次々と女性をレイプし、殺していく。帰還兵を演じた村上淳は「一日で三人の女性をレイプすることは今後の役者人生で二度とないだろう」と語る。その過激さゆえに世界の映画祭から門前払いを喰らった本作であるが、井上淳一監督は「レイプとはこんなにも人間性を蹂躙されることだ、人を殺すということはこんなにも無惨で無慈悲なものだ、とうことを表現するために、拒絶されることを承知であえて過激に描いた」と胸を張る。

戦争に翻弄される男と女。絶望なのか、希望なのか…今、蘇る、昭和官能文藝ロマン。
「戦争が好き」と女は言う。「みんな燃えてしまえば、平等になるから」と。女は元娼婦の呑み屋の女将。男は坂口安吾自身を模した飲んだくれの作家。自分の欲望に忠実に生きる女と、戦争に絶望した男。そこにもう一人の男が絡む。中国戦線で片腕を失い、戦争を十字架のように背負った帰還兵だ。戦争によって大きく損なわれた、一人の女と二人の男。その三人の運命がやがて交錯し・・・。若松孝二の遺伝子を継ぐ者たちが過激に描く、戦争とエロス!監督は井上淳一。脚本は荒井晴彦と中野 太。
2013年、日本映画の最大の問題作です。

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執筆者

Yasuhiro Togawa