CS 映画専門チャンネル「ムービープラス」にて、毎週土曜20:55〜ハリウッド大作や世界のヒット作を放送する「YKK AP ムービープラス・プレミア」。本編の放送前に、映画好きで知られる小堺一機さんとともに見どころを紹介する「プレミア・ナビ」の9 月のゲストに、映画監督の井筒和幸さんをお迎えしました。
カメラがまわる前から映画談義に花を咲かせ、打合せ中も笑いが絶えない井筒監督と小堺さん。和やかな雰囲気のまま、収録がスタート。

9 月のプレミア・ナビは、キネマ旬報の2009 年外国映画ベスト・テンで第1 位に輝き、監督として、また役者としての集大成とも言えるクリント・イーストウッドの「グラン・トリノ」などの話題作を放送する。
「グラン・トリノ」の監督、クリント・イーストウッドについて、井筒さんは「いままさに現役で映画監督をやられていることが、本当にすごいことです。81 歳とは思えない。僕なんて彼の足元にも及ばない、言ってみれば僕は「ややこ」みたいなもんです(笑)」とコメントし、笑いを誘った。

TV シリーズ「ローハイド」でイーストウッドを知ったという井筒監督。「その頃は小学生だったからあまり細かくは分かってなかったけど、二枚目の優男みたいな印象でした。それから僕が中学生か高校生くらいになると「荒野の用心棒」でイーストウッドを見て、え?これ同じ人?という驚きがありましたね。そして「ダーティ・ハリー」へと続くわけだけれど、よく考えてみると、僕は知らぬ間に小学生の頃から、この巨匠が成長していく様を見てきてるんですよね。そんな人、なかなかいないですよ。」としみじみ。

小堺さんが「イーストウッドは男くさい俳優ですよね。」と問いかけると、井筒監督は「そうですね。男くさいと言えば、イーストウッドとほぼ同期のスティーヴ・マックイーンなんかもそうですよね。クールなガイの双璧はこのふたりですね(笑)。ふたりとも、ロマンスなんかほとんど描かれなくて、圧倒的に男のファンが多い俳優です。彼らについて、一度ちゃんと語ったら面白そう。」と、当時の2 大男くさい俳優について語った。
イーストウッドが演じる主人公については、「店への入り方が気に入らないからもう一回入れ、とか言う道頓堀の寿司屋の親父みたい(笑)。やたらと口うるさい親父ですよね。典型的なアメリカの白人の保守派の親父なんだけど、やるときはやるぜ、っていう。こういう男性像はイーストウッドのテーマでもありますよね。」と、井筒監督ならではの視点で語った。
「さっき打合せ中に監督から面白い話が出たんだけど、「ノーカントリー」っていう映画の原題は「No Country for Old Men」。要するに、俺たちが好きだったアメリカはないんだ、居場所がないんだ、っていう映画じゃないですか。
「グラン・トリノ」もある種そういう映画ですよね。」と小堺さんが持ちかけると、井筒監督は「50 年代の中西部で育まれた愛国精神を持った壮年層に対する哀歌でしょうね。いまは誰も勇気を奮い起こして若者にガタガタ言う人なんていないけど、ほんとにこれでいいの?っていう簡単な話だと思うんですよね。日本も同じようなところがあるけど、日本でそれを映画で描くと、もう少し湿った感じになりそう。」と分析した。
「最後は意外な結末でしたね。「グラン・トリノ」は「ダーティ・ハリー」シリーズの僕なりの決着だと、どこかでイーストウッドが話していたのを記憶しています。」と小堺さんが話すと、井筒監督も納得の様子。小堺さんが、「思えば「グラン・トリノ」にはお馴染みの役者が出演していないですね。モン族役はみんな素人の子たちだし。」と指摘すると、「確かにそうですね。もしかすると、今回はいつもの仲間に頼らず、孤独にたった一人でケリを着けるんだ、そんな思いがあったのかもしれないですね。これ、いま分かったんだけど(笑)」と、おちゃらけて見せた。
初めてアカデミー賞の作品賞を受賞した「許されざる者」に話が及ぶと、井筒監督は「普段善と言われているものが本当に善なのか、悪人とされている人間が本当に悪人なのか、見極めたかった、とイーストウッドは言っています。

どっちが善だとか悪だとかじゃない。その時の自分の気持ちで、どっちが正しいか判断しろ。ということを突きつけてくる。「ダーティ・ハリー」の頃から、あるいはもっとさかのぼってウエスタンの頃からでも、彼の持っているテーマは普遍的なものですよね。「グラン・トリノ」も、そういったことの総決算だったんじゃないですか。そこがドキドキさせるところだと思います。」と語った。すかさず小堺さんは「確かに「ミリオンダラー・ベイビー」も、何が正しいのか、ということがテーマでした。」と同調すると、井筒監督は「あの作品も、主人公は自分の信念で行動しているけど、観ている人に「俺って悪人だと思う?」と投げかけているでしょう。あの強気のスタイルが、イーストウッドを育んできた思想=イデオロギーなんだと、僕は思います。」と力説した。
「いまやクリント・イーストウッド、というだけで作品を観たいと思いますよね。」と言う小堺さんに、「観たいのはもちろんだけど、若手の役者はみんなイーストウッドの映画に出たいと思うでしょうね。」と井筒監督も続けた。

イーストウッドの監督ぶりについて小堺さんは、「撮影前に構成がきっちりできているからものすごく早く撮影が終わるらしいです。ほとんどテイクワンでOK を出すって有名ですしね。食事のケータリングも、自分が監督だからって先に食べたりしないでみんなと一緒にちゃんと並ぶんですって(笑)。そういうところもみんなに愛される理由みたいですよ。」と言うと、「俺もそんな風にやりたいな〜(笑)」と、少し羨ましそうな顔を覗かせた井筒監督だった。
映画を愛するふたりの会話は途切れることもなく、まだまだ話し足りないといった様子で収録を終えました。
井筒監督をお迎えし、映画の見どころをお届けする「プレミア・ナビ」。井筒監督ならではの視点で語られた小堺さんとのトークを、映画本編とあわせてお楽しみください。

「プレミア・ナビ」
毎週土曜日夜8:55分・日曜午後・火曜夜に放送する「YKK AP ムービープラス・プレミア」。プレミア・ナビは
映画の始まる前の5分間と、終わった後の1分間に作品の見どころや最新情報を紹介。
9 月ゲスト:井筒和幸
紹介作品:「グラン・トリノ」
「グラン・トリノ」
9 月17 日(土)20:55〜23:15 ※18・20 日にも放送あり
<その他の「ムービープラス・プレミア」の放送作品>
「愛を読むひと」
9 月3日(土)20:55〜23:30 ※4・6・22 日にも放送あり
「ヴィクトリア女王 世紀の愛」
9 月10日(土)20:55〜23:15 ※11・13・22・28 日にも放送あり
「最高の人生の見つけ方」
9 月24 日(土)20:55〜23:00 ※25・27 日にも放送あり
ムービープラス
http://www.movieplus.jp

執筆者

Yasuhiro Togawa