愛は悲劇として語るべきか?
スクリーンの中で繰り広げられる悲劇に浸りきって泣くのも確かに醍醐味。しかし、「悲劇は喜劇である。愛は徹底的に喜劇として語るべし!」と言わんばかりに、定番のドラマを軽いステップで飛び越える心地よい映画がベルギーから届いた。道化師としてパリの舞台で活躍し、実生活でも良きパートナーであるアベルとゴードンが監督・主演を務める『ルンバ!』だ。
ルンバのステップを踏むように何をするにもぴたりと息の合ったカップル。自動車事故をきっかけに全てがずれてしまったら…?そんな二人の愛のドラマを、セリフは徹底的に少なく、アクション・ギャグで描く本作。2008年のカンヌ映画祭では<批評家週間>の特別招待作品として上映され、賞賛を受けた傑作コメディだ。

小学校で教鞭を取るアベルとゴードンのカップルは、ダンスのパートナーとしても最高の相性だ。学校での授業。放課後のダンスレッスン。ディズニーの『わんわん物語』のキスシーンを再現した微笑ましい食事シーン。ベッドに入るまでの二人の日常がテンポ良く語られ、その楽しさは観客をアベルとゴードンの世界にすんなりトリップさせる。

二人がダンス大会で優勝した帰り道、自殺願望の男のせいで乗っていた車が大破する。片足を失ったゴードン。記憶を失い、妻の顔さえ分らないアベル。そんな悲劇もアベルとゴードンの手にかかれば、徹底的にからりとしたコメディとして成立する。
ぎこちないながらも生活を再開した二人。「よし!」の掛け声と共に、山のようなトロフィーを裏庭に捨てるゴードン。宅配便で義足が届くと杖さえもぽいっと捨てて、慣れないながらに何の躊躇もせずに歩き始める。一方記憶が数十秒しかもたないアベルは、メリーゴーランドに乗ったかのように、同じ場所をぐるぐる回るばかりで、何をしても失敗続き。料理するにも塩をひと袋使い切ってしまう有様だ。割り切りの早い女性、順応できない男性。デフォルメされた二人の姿には、普遍的な男女の関係が浮かび上がる。
そんな折り、火事で家から焼け出され、パンを買いに出たアベルが行方不明に!二人の愛の行方は?

アベルとゴードンの鍛え抜かれた肉体からは、台詞よりも雄弁に感情がほとばしる。ままならない生活や二人の関係に対する苛立ちから、車椅子に座ったゴードンと佇むアベルの影が『タブー』の曲と共に踊り出すシーンは必見。また随所に挿入されるダンスシーンで、ゴードンの骨太で弾力のある身体からふわりと匂う官能の香りの豊かなこと!カラフルだが品の良いトーンで彩られた画面そのままに、爆笑ながら示唆に富んだ大人の童話が繰り広げられる。
同時上映はアベル&ゴードンの長編第1作、氷山魅せられ、無関心な家族を捨てて新たな愛を求めるヒロインの姿を描いたコメディ『アイスバーグ!』。1度で2度美味しい珠玉の映画体験。この秋、パートナーや仲の良い友達と楽しんでみては?

(Text:デューイ松田)

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執筆者

Yasuhiro Togawa