ここ数日間、“ゲリラ豪雨”が日本各地を襲い、深刻な被害が広がっている。“異常気象”という言葉も毎年のように言われるようになったが、この原因をたどると、“気候変動”という言葉に辿り着く。気候変動とは、様々な要因によって、地球の気候が変化していくことを指すが、近年は森林破壊や二酸化炭素の過剰排出などの人為的な要因によっておこされる急激な変化が注目されている。

そんな、気候変動によって大きな影響を受け続けている地域を捉えたドキュメンタリー映画『ビューティフル アイランズ』がいよいよ公開される。本作品の舞台は、南太平洋のツバル、イタリアのベネチア、アラスカのシシマレフ島の、気候変動によって沈むと言われている島々。
中でも、「最初に沈む国」と言われるツバルは、大雨が降ると、子供たちが通う学校の校庭は水浸しになり、教室まで浸水する。彼らにとって気候変動の影響はすでに日常となり、被害と共に生きている姿が印象的だ。実はそんなツバルから、日本に留学している女子高生がいる。彼女はこの作品を観て、「自分の国が沈むのは悲しい。もし日本が沈むと言われたら、日本の人はどう思うだろう?」とコメントした。

ツバルと共に、110センチを超える高潮によって5つ星ホテルをはじめ、サン・マルコ広場など町中が水に沈むベネチア。永久凍土の島、シシマレフでは気候変動によって高波が押し寄せ、島の土壌そのものを削っていく。気候変動の影響が日常となり、自分の故郷が消えていく—。こんな光景が、日本の近い将来にもあるかもしれない。気候変動、地球温暖化などの言葉はどこか遠くの島の話だと思われがちだが、ここ数日のゲリラ豪雨や梅雨入りの大幅な遅れなど、何年か前には考えられなかった気候の変化を考えると、日本が沈むという話も、現実味を帯びてくる。実際日本の最南端の島、沖ノ鳥島は気候変動よる水没の危機に直面している。
本作品は、被害に逃げ惑う人々を追ったドキュメンタリーではない。“気候変動によって失われるもの”を丹念に追った海南監督は、「データではなく、心で感じて欲しい」と語る。日本に先駆けて本作品が公開されたアメリカでは、多くの反響を呼び、バラエティ誌から「映像と危機感が巧みに融合された優れたドキュメンタリー」と高評価を受けた。

気候変動現実を前に、私たちに何ができるのか?エアコンの設定温度を下げたくなる本格的な夏を前に、この映画で感じて欲しい。
映画『ビューティフル アイランズ』は7月10日から恵比寿ガーデンシネマ他全国順次公開。

★沈みゆく島、失われつつある“普通の暮らし”—『ビューティフル アイランズ』 
  南太平洋のツバル、イタリアのベネチア、アラスカのシシマレフ島。気候も文化も異なる島でそれぞれに故郷を愛して生きる人々。撮影は、彼らの普通の“暮らし”に焦点を当てて、3年がかりで行われた。絆を育む祭りや、長年受け継がれてきた伝統工芸、水辺のゆったりとした暮らし。そのどれもが、気候変動によって失われてゆく。その危機に直面している人々をあるがままに映し出した。自然詩ドキュメンタリー。
  
監督・プロデューサー・編集 海南友子/エグゼクティブプロデューサー 是枝裕和/
撮影 南幸男/VE 河合正樹/整音 森英司/アソシエイトプロデューサー・編集 向山正利/
配給 ゴー・シネマ/2009/日本/カラー/1時間46分/HD&35mm

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執筆者

Yasuhiro Togawa