中国は歴史の国である。長江流域に紀元前5000年〜6000年のものと推定される、黄河文明以前の遺跡が近年の発掘調査により発見された。この長江文明は文明の時期としては紀元前14000年〜紀元前1000年の範囲に入るそうだ。教科書で習った四大文明も書き換えられる大発見である。秦が初めて中原を統一したのが紀元前221年。統一後、始皇帝は強大な権力を持ち、匈奴の進入に備えて万里の長城の修復に着手した。日本はまだ弥生時代、水稲耕作が始まったばかりだ。 “中国映画の全貌2010”特別上映作品として日本映画『敦煌』が組まれている。敦煌は井上靖の小説が発表されて、一躍、悠久の歴史を感じさせるロマンの地となった。シルクロードの拠点である敦煌には仏教美術の宝庫として名高い莫高窟がある。ここに楽?が初めて洞窟を掘ったのは紀元366年のこと。日本は、ようやく大和朝廷時代に入り国の呈を成してきたが、まだまだ神話の世界である。その文明の地・中国が後進国に堕したのは、清末からのことだ。数百年続いた王朝の上に胡坐をかいていた結果だが、まだこの100数年間のことなのだ。それまでは、文化発祥の地であり、朝貢外交が当り前の文字通り世界の中心「中華」であった。眠れる獅子と恐れられていた中国が、今、ようやく目を覚まし世界の中央に歩み始めている。その目覚しい経済発展に、アメリカ合衆国のグローバル化に対し“中国ルール”という言葉も生まれた。しかし、共産主義を標榜しながらの市場開放は、多くの矛盾を内包している。貧富の格差の増大、少数民族問題、果ては毒入り餃子問題まで、それは膿となって滲み出ている。——どこへいくのか中国。
今年の“中国映画の全貌2010”は劇場未公開作品が多く上映される。『北京の自転車』『シャングリラ』『女人本色』それにドキュメンタリーシリーズ「胡同三部作」。それぞれに時代をとらえた切り口の鋭い作品である。『北京の自転車』は経済成長にともなう都市部と農村の格差と都市の問題を。『シャングリラ』は台湾との合作で新しい試みとして。「胡同三部作」は北京オリンピックが決定し、変貌してゆく北京の姿と庶民の暮らしにスポットをあてた。そして、香港返還10周年記念作品として制作された『女人本色』は、香港版「ワイルドスワン」である。返還後の10年間、一国二制度と言われた新体制、金融危機、アメリカ同時多発テロ、サーズと連続して襲い掛かる歴史の激流にもまれ、香港に住む皆さんはこんなに苦労していたのかと驚かされる。阿片戦争で敗北して割譲を余儀なくされた香港。100年を経て約束どおりイギリスから中国に返還されたのは、記憶に新しい。あれから、もう10数年が過ぎたのだ。
50年後、100年後、中国は、世界はそして日本はどう変わっているのか。日本という足元を見つめつつ、広く世界を、真の中国を見なければならない時代になった。

・新作映画
『北京の自転車』
2000/中国・台湾/ヴィスタ(1:1.85)/ドルビーSR/113分
原題:十七歳的単車/英題:Beijing Bicycle
提供:ワコー  配給:ワコー/グアパ・グアポ

『シャングリラ』
2008/中国・台湾/107分
原題:這几是香格里拉/英題:Finding Shangri-La
提供:フォーカスピクチャーズ

・その他の上映作品
●経済急成長の波ゆらり
3「女人本色」(初公開)
4「上海家族」
5「榕樹の丘へ」
6「ようこそ、羊さま。」
7「長江に生きる 秉愛の物語」
●胡同に生きてこそ」
8「胡同の理髪師」
9「胡同愛歌」
10「ドキュメンタリー胡同の理髪師」(初公開)
11「ドキュメンタリー胡同の精神病院」(初公開)
12「ドキュメンタリー胡同のモツ鍋店」(初公開)
●中国少数民族の魂
13「雲南の少女 ルオマの初恋」(日本最終上映)
14「白い馬の季節」
15「草原の女」
16「チベットの女 イシの生涯」
17「トゥヤーの結婚」
18「雲南の花嫁」
19「狩り場の掟」
●ジャ・ジャンクーの映画世界
20「一瞬の夢」
21「プラットホーム」
22「青の稲妻」
23「世界」
24「長江哀歌」
25「四川のうた」
●中国的文芸作品
26「阿Q正伝」
27「駱駝の祥子」
●古典となった傑作たち
28「紅いコーリャン」
29「古井戸」
30「芙蓉鎮」
31「子供たちの王様」
32「菊チュイトウ豆」
33「青い凧」
34「双旗鎮刀客」
●8月15日戦争忘れまじ
35「蟻の兵隊」
36「鬼が来た!」
37「靖国 YASUKUNI」
38「乳泉村の子」
39「北京の恋-四郎探母-」
●4000年の歴史の国
40「テラコッタ・ウォリア‐秦俑」
41「項羽と劉邦-その愛と興亡」(日本最終上映)
42「阿片戦争」
43「戦場のレクイエム」
44「孫文-100年先を見た男-」
45「ニーハオ ?小平」
46「孔家の人々」
47「敦煌」
●伝統芸能に生きる
48「花の生涯-梅蘭芳」
49「さらば、わが愛/覇王別姫」
50「變へんめん臉 この櫂に手をそえて」
51「心の香り」
●子供たちの心
52「思い出の夏」(日本最終上映)
53「延安の娘」
●いつの時代も愛は
54「愛にかける橋」
55「パティシエの恋」
56「1978年、冬。」
57「ルアンの歌」
●永遠のレスリー・チャン
58「ぼくらはいつも恋してる!金枝玉葉2」
59「追憶の上海」
60「白髪魔女伝/キラー・ウルフ」

上映期間:2010年7月24日(土)〜8月27日(金)
場所:新宿K’s cinema

関連作品

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執筆者

Yasuhiro TogawaYasuhiro Togawa