15年度全米映画監督賞の授賞式は、11月11日水曜日、ハリウッドにある全米映画協会にて行われた。全米映画監督協会(Directors Guild of America)は、マイノリティーや女性の若手映画監督をサポートするために学生映画賞を設立し、今年度は若手日本人監督の落合賢氏が、アメリカ映画協会付属大学院(AFI)の卒業制作短編映画「ハーフケニス」の功績が認められ、審査員特別賞を受賞することになった。
審査員特別賞を受賞するのは日本人初の快挙となる。同賞は「ファイナルデステネーション」やジェットリーの「ザ・ワン」などを手がけたアジア系アメリカ人監督を代表するジェームス・ワン監督から渡された。

落合監督は授賞式のスピーチで、「全米映画監督協会(DGA)とアメリカ映画協会(AFI)に感謝の気持ちでいっぱいです。ただ、僕がこうしてこのような名誉な賞をいただけたのは、僕の監督としての技量というよりも才能あふれるクルーやキャストに恵まれたからだと思います。最高のクルーやキャストと仕事が出来た御陰で、僕が実際に監督として立派に果たしたことといえば、撮影時に『アクション』と『カット』と大声で叫ぶだけで、後は座っているだけした。」と、謙虚な姿勢で会場を笑わせた。

「ハーフケニス」(原題:”Half Kenneth”)は、第二次世界大戦中にあった日系アメリカ人強制収容所にまつわるフィクション映画で、ハーフの幼い兄弟が、収容所を脱走して白人の母親の住む町へと旅に出る物語である。同作品は、すでに7つの賞を世界中の映画祭から受賞しており、中にはアジア最大級の短編映画祭で、アカデミー賞公認の映画祭でもあるショートショートフィルムフェスティバルから日本部門最優秀短編賞を受賞している。審査員長はアカデミー賞受賞作品「おくりびと」の滝田洋二郎監督であった。

また今年度のコダックフィルムコンペティションでは、最優秀撮影賞を受賞している。授賞式は、世界最大の短編映画祭、クレーモントファランド国際映画祭(フランス)にて2010年に行われる。以下は、世界的に有名な撮影監督で、審査員であるジョンベイリー氏(ASC)の感想である。

「類いまれな撮影技術が物語をサポートし、非常に美しい映像を作り上げている。またマンザナーの砂漠のシーンは、とても繊細に描かれてある。」

落合監督は12歳の頃から映画を作り始め、青山学院高等部を卒業後すぐ映画監督になるという夢を追いかけるべく渡米し、映画学部では世界で一番有名な南カルフォルニア大学(USC)に入学し、映画の歴史、セオリー、制作について学ぶ。卒業制作を監督できる4名の監督に日本人として初めて選ばれ、その卒業制作「エクスプレス831」が大学部門で一位に選ばれる。同大学卒業後、アメリカ映画協会付属大学院、映画監督学科(AFI)に進学する。平均年齢29歳の合格者28名の中に日本人留学生として初めて23歳で選ばれ、また同大学院の監督28名中、二本目の卒業制作を監督できる二人のうちに選ばれ、「ラッキーロータス」と「ハーフケニス」を監督し、2008年の12月に同大学院を卒業する。

「大人への成長を遂げる冒険を主人公の子供達の無邪気な目線を通して追っていく物語です。テーマとなっているのは、家族の大切さ、特に主人公の兄が自分の弟に対して取る態度に焦点を当て、弟の純粋さを守るために、兄としての責任を感じ始めます。歴史的事実に触れながらも、エンターテイメント性の高い作品になっていて、特に若い世代の人達にはこの映画をきっかけにあまり語られていない日系アメリカ人の歴史に興味を持っていただければ幸いです。」

落合監督は現在ロサンゼルスにて、二本の長編映画の脚本を執筆中。
冬には日本縦断ロードトリップ短編映画「井の中の蛙」を日本で撮影し、来年初頭にはアルツハイマー病の老人介護に多大な貢献をした木村哲子女史の自伝をもとにした短編映画「トロイメライ」を監督する。また、コマーシャルやプロモーションビデオの監督など幅広く手がけている。

執筆者

Inoue Midori